2012.10.31 有① 03
「へー、なんやええ子達やんか。
どっちかと付き合いたいとか思ったんとちゃうん? ん? もしかしたら、どっちともとか言い出すんとちゃうやろな」
「そんなわけないよ。だって、二人の名前もちゃんと覚えてないのに」
自己紹介をしてもらったのだが、いきなり現れた女の子達にあたふたしてしまって、覚えられなかった。
お互いを『ナデナデ』と『スミノ』と呼び合っていた。
そこからフルネームを思い出そうとしだが、無理そうだ。
二人とも優しくて、可愛かった。有が読んでる本や喋り方から、大人だとか、クラスの男子に比べて頭がいいとか褒めてくれた。単なるお世辞かもしれないが、嬉しかった。
だからこそ、心残りがある。
別れ際に、きちんと名前を呼んで、ありがとうを伝えておきたかった。
「複雑そうな顔しとるとこ悪いんやけど、おねーちゃんはちょっとホッとしたで。うちの知らん間に、有にも彼女ができたんやないかと、ちょっと焦っとったからな」
「か、彼女って、そんなの興味ないし」
「ずっと、そうやったらええのにな」
聖里菜のぼやきに、有はドキリとなった。
『彼女』という言葉で、エッチな妄想をしてしまう。こんな気持ちになるのも全部、友達の勇次くんが持ってきた本のせいだ。
彼氏彼女の関係になれば、おっぱいとか、パンツの中とか――
「ちっ」
聖里菜の舌打ちで、有は大人な妄想から現実に戻ってくる。ちょうど催眠術が、指パッチンで解けるような感覚だった。
舌打ちの原因を探るべく、姉の視線をたどる。
昼の時間帯に毎日やって来ている弁当屋の出張販売車を見つめているようだ。弁当屋の店員が、お客さんに絡まれているように見えた。
「なんやあれ、クレーマーかいな? ああいうんには、絶対になったらアカンで」
「別に怒鳴ってもいないのに、よくあんなのに気づいたね」
「え? まぁ、なんか目に入ってもうたんやな。くそが」
クレーマー認定された女性は、目立つといえば目立つ。後ろ姿と横顔しかまだ見えていない。
だが、少ない情報が全て、綺麗に直結している。
「もしかして、里菜ちゃん。あの人に嫉妬してるとかじゃないよね?」
「なんや、有。まさかあんなんが、好みとかいうんちゃうやろな」
「別に、そんなことはないよ。里菜ちゃんのほうが、綺麗だと思うし」
あと、可愛いと思うのは、お見舞いに来てくれた女子二人だし。
「けど一般論として、あのクレーマーっぽい人もなかなかなんじゃないかと思って。この前、テレビで見た桐谷美玲に似てるよね」
「ああいう顔、みんな好っきゃな」
「だから、僕のは一般論だって。別に好きとかじゃないよ」
「はいはい、なんでもええわ。せやけど、覚えとき。ああいう見た目がいい女は人生がイージーモードになって、ノータリンのアホんだらが多いからな。どうせ、苦労もせんと楽しい生活を送っとるに決まっとる」
「なにかあった、里菜ちゃん?」
「あの女と? ないない。知らんもん。あの女が、前に付き合っとった男のこととか」
「そうじゃなくて。そんな風に人の悪口いうのがおかしいからさ。らしくないよ」
「らしくないか、かなわんなぁ」
観念したように聖里菜は呟いた。疲れた表情だ。
傷つきながらも笑みを浮かべている。
「実はな、今日は有に伝えることがあって、来たんよ」
「なに?」
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