2012.10.31 有① 02

「里菜ちゃんも、お父さんからの手紙を読んでみる?」


「ええわ。有に向けての手紙ってことは、ラブレターみたいなもんやろ。それやったら、あかんやん。うちが目を通すわけにはいかへんで」


「そんなこと言って、読むのがめんどくさいだけじゃないの?」


「ま、それもあるわな」


「里菜ちゃんに手紙を書いてくれなかったのは、きっとそういう性格を見越してのことだったんじゃないかな?」


「オトンのことやから、うちにだけは手紙ないことで、いまみたいに有との話のネタになるんを予想しとったとかもありえるで」


「あ、すごいね。その発想」


「いや、関心すんなって。テキトーこいてるだけやからな」


「でも、お父さんはいまみたいなことを里菜ちゃんが言うだろうって、手紙で予想してたからね。だから、すごいんだって」


「ほんまかいな」

 父親の読みの深さに嫌気がさしたのか、聖里菜は舌打ちをする。


「オトンの話題はこんぐらいでええやろ。それよりも、聞いたで。有の見舞いに来てくれよる友達がおるんやろ?」


「お母さんからきいたの?」


「いや、風の噂や。せやって、オカンとは、だいぶ連絡とってへんからな。んなことたずねたとしても、答えてくれるわけがあらへん。むしろ、質問の嵐がくるだけや。うちがいまなにしよるかってやかましいねん」


「え? なにしてるって、高校に通ってるんでしょ?」


「そんなことは、どうでもええやん」


「いや、よくないよ」


「そうやって、話を逸らすつもりやな。見舞いに来てくれるんが、女の子やから答えたくないんやな。せやろ?」


 話を逸らそうとしているのは、どう考えても聖里菜だ。ただ、それを指摘しても仕方がないのは、弟として痛いほどわかっている。

 ため息をひとつつき、有は引きつった笑みを浮かべる。


「えーっと、男か女かで言えば、両方かな」


「ふたなり? いや、なんでもあらへん。絶対ちがうしな」


 意味のわからないことを口にしてから、聖里菜は自己完結して続ける。


「あれやろ。いろんな人が来てくれよるってことなんやな? やるやんか!」


「うん、そういうこと。それで、男の子のほうはね」


「そんなん興味ない。女の子の話をきかせーや。彼女とかとちゃうやろな!」


「ちがうよ。同じクラスの女子だよ」


「ん? 今年、学校に一回でも通えたんか? それも知らんかったで」


「ううん。ずっと病院にいるよ。でもね、担任の先生はお見舞いに来てくれたことがあったんだ。その人が寿退社するってなってさ。クラスの女子が寄せ書きをつくるのに、わざわざ病院に来てくれたんだ」


 保護者なしの女子二人だけで見舞いにきてくれた。バスに乗って、初対面の有に会いに来て、優しくする。彼女らにとっては、大冒険だったはずだ。

 すごい同級生だと、素直に感心した。

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