2012.10.31 銀河① 03

「笑ってくれてもいいでしょ。

 とりま、片岡ってのがやばいやつなんだね。そうか。あんたもついに死ぬのか。ざまぁないね。岩田屋は一歩平和に近づくね」


「ひでぇな。カレンさん。毎週、相手してくれてるのに」


「これは、慈善活動よ。あたしが身を犠牲にしたら、火曜日に被害が出ないでしょ」


「他の曜日は、そんな責任感を持ってセフレになってくれてませんからね」


 そもそも、複数の女性と同時に交際していることも、月美とカレンしか知らないのだ。


「まぁ、そろそろ死ぬんだったら、冷静になって最後の相手を選ぶべきよ」


「カレンさんも説教するんすか。やめてくださいよ。さっきも月美さんに

『納得いかない日々を妬んでても、輝かずにくすむだけだって』

 ありがたいお言葉をいただいてきたばっかりですからね」


「言われたばっかりって、ここに来る前、月美さんに会ってきたの? じゃあ助言もらってるでしょ。死ぬ前に病院に行ってあげるべきだって」


「だからなんで、おふたりはそういうところで共通した意見を出すんすか」


「話を聞く限りだと、銀河は楓ちゃんとならうまいことやっていけると思うよ」


「無理っすよ。もしそんな感じになっても、あいつ相手に勃つとは限らないし」


「もしかして、月美さんとも楽しんできたの? 一日二回以上はダメなん? だから、いまから病院に行っても無理だと?」


「そんな質問するぐらいなら、精子をちゃんと飲んでくださいよ。濃さで判断できることもあるでしょ。疑問も解決したはずなのに」


 舌打ちをしたカレンが、運転席に腰をすえてシートベルトを締める。


「ごちゃごちゃうるさいから、いまから病院に送ってくね。で、病院に放置するから」


「ちょっと、カレンさん。マジですか? お仕事あるんじゃ?」


「今日は、そもそも休みだったのよ。でも、仕込みの手伝いで午前中にサービスで働いたからね。いつ帰っても文句は言われないはずよ」


「サービスって、エロい響きですね」


 無言のまま、カレンがエンジンキーを回す。エンジン音をかき消すほどの大音量でオーディオから音楽が流れ始める。

 サビの途中から歌いだされた曲は、カレンの年代よりも一回りは昔に流行ったものだ。


 カレンにとって最初の男の影響は、繊細なところにまで至っている。

 好きな男によって、女の色が染まる。

 入院している楓もそんな感じだ。

 銀河が手を出していないのに、銀河の色に染まっている。


 つまらない女だ。

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