五月中旬


皐月(5/18)


 先週の快晴続きが一転、今週はどんよりとした日が続く。気温も四、五度下がって二十度前後。朝晩は窓を開けていると肌寒い。完全に閉め切ってしまうと、今度はじめじめとして息苦しい。


 蜜柑の花期は短く、白い花弁があっという間に茶色く萎れる。花弁がすっかり落ち切った跡をよく見ると、めしべだけを残して子房がふっくらと丸く、小さく膨らんでいる。丁度ビービー弾ほどの大きさである。これが冬になると橙色に色づいて甘酸っぱい実になる。一昨年は豊作、去年は凶作、今年はどうなるだろう。

 蜜柑はナミアゲハやクロアゲハの幼虫の食草である。鳥の糞に擬態した、白い筋の入った幼虫が時折、葉の上を這っている。肉食の蜂たちはこういった肉の柔らかな幼虫を狙って飛び回っている。


 蜜柑の花と入れ替わるようにして卵色の花をつけたのは柿の木。釣り鐘型の存外に可愛らしい花である。蜜蜂がたびたび吸蜜に訪れるが、足場がなく不安定なので毎度苦心している様子。主な送粉者はもっと小さな虫なのだろうと思うが定かではない。


 庭の東側、梅や椿が植わっていて日中はあまり日の当たらないところに雪の下が群生している。普段は天麩羅をするときくらいにしか注意の向かない植物だが、近頃咲き出した花の形が面白い。白い五枚の花弁のうち上三枚は小さく、下二枚が大きい。離れて見ると下二枚の花弁ばかり目立ち、花期が過ぎて、散ってゆく途中なのかと勘違いするが、これは元々こういう形の花なのである。上三枚の小さい花弁にはそれぞれ薄紅色と黄色の慎ましい斑点模様がある。白いおしべは、拳を握った腕をぴょこぴょこと四方へ伸ばしたよう。細長く立ち上がった花茎に幾つもの花をつける。花自体は小指の先ほどの大きさなのだが、小さいながらも趣向のある花である。食卓に上るほど身近な植物であるのに、今まで花の風情は知らずにいた。


 同じ東側の白梅の根方あたりにこじんまりとまとまっていた草に、今朝がた黄色い花が咲いた。菫の仲間か何かだろうと特に気にしていなかったが、サクラソウ科の小茄子こなすびという種らしい。葉は卵形で細かい毛が生えている。名の由来は実の形から。


 先週末、とうとう烏瓜の芽が五株ほど出た。二つの鉢から同時に、似たような芽が出たので今度こそ間違いなかろうと思う。子葉は朝顔よりもかなり小さく、毛に覆われている。よく晴れて、気温も二十五度を超す日が三、四日ほど続いた頃に一斉に出てきた。発芽促進処理をした鉢から三株、何も手をかけていない鉢から二株の計五株である。


 二週間ほど前から紫蘭が花盛り。鮮やかな紫の花をそこここで咲かせている。


 小鳥たちはそろそろ巣立ちを始める。外に何となく耳を傾けていると、まだ言葉を覚えていない、巣を出たばかりの幼鳥たちの、親を呼ぶ心細そうな声が聞こえてくる。


 テッペンカケタカの聞きなしで知られる杜鵑ほととぎすが夜鳴きを始めた。青葉、初鰹と並ぶ初夏の風物。鰹はまだだが残り二つは既に制覇す。

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