四月上旬


卯月(4/9)


 緑陰が日に日に濃くなる。春には花をつけ、夏には葉を茂らせ、秋には紅葉、冬にはそれら全てを落としてしまう木々の代謝の凄まじさよ。一体あの雑木林一叢だけで年間何トンの体重の増減があるのだろう。


 庭の山吹が八重に綻んだ。家を出てすぐ近所の斜面にも山吹が植えられているが、こちらは一重。五枚の花弁を綺麗に並べて満開を迎えている。梅に桜に山吹、琵琶、苺。バラ科の花は実に多様。


 植え込みの下で何やらガサゴソと動いている。しばらくじっと待っていると、蜥蜴の尻尾が見えた。やけに騒がしいので何かと思えば、別の蜥蜴とくんずほぐれつしている。一方がもう一方の尻尾の根本を噛んでいる。昔、孵ったばかりの我が子を丸呑みにする蜥蜴を見たことがあったので、今回も共食いかしらんと半ば期待しつつ見守る。しかしどうも様子が違う。どうやら雄が雌に求愛をしているらしい。雌は相手が気に入らないのか必死に逃れようとする。雄がそれを追いかけ回す。落ち葉や枯れ枝がガサゴソと音を立てる。何かから隠れようという気は全くないと見える。

 冬を越え、草木も動物たちも恋の季節。先ほどの雄蜥蜴は結局、振られてしまった。庭中どこを見ても蜥蜴、金蛇で溢れているから、またいくらでも機会はあるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る