三月下旬


弥生(3/25)


 すみれ蒲公英たんぽぽ常盤爆ときわはぜ蔦葉海蘭つたばうんらん射干しゃがなずな花韮はなにら、仏の座、姫踊子草ひめおどりこそう矢筈豌豆やはずえんどう、紫花菜、繁縷はこべ片喰かたばみ、芋片喰、水仙、大犬の陰嚢ふぐり、姫蔓蕎麦、胡瓜草きゅうりぐさ金瘡小草きらんそう、白詰草。

 家の近くを歩ているだけでも、ざっとこれだけの野花を見る。腰掛けて矯めつ眇めつしていると、小さな蜂たちが食事の邪魔をするなとばかりに、耳元でけたたましい羽音を立てるので慌てて場所を譲る。


 染井吉野は六分咲き。満開の山桜は、昼は眩いほど白く、夕暮れ時は橙に染まる。林床にばらばらと落ちている黄色い穂状の花はくぬぎの雄花だろう。かえでの仲間も若葉の中に紅い控えめな花を咲かせている。秋になればこれが羽根のついた実になる。

 林縁に淡黄色の鈴蘭のような花を幾房も垂らしている低木がある。図鑑を繰ってみると、木五倍子きぶしというらしい。木漏れ日を浴びて風に揺られる彼の花の姿を眺めていると、シャランシャランと風雅な音が聞こえてくるようである。


 目白のさえずりがかしましい。つい一月前まで藪に潜んで地鳴きをしていたうぐいすも、我が世の春を謳歌するがごと、今はちょっと押しつけがましいくらいに美しく囀っている。

 散歩の途中に、小枝や枯れ草で編まれた繭のようなものが梢の先にくっついているのを見かけた。柄長えながが営巣をしている途中のものか、以前に作りかけて放棄したものか。しばらく気に掛けておこうと思う。


 春分は二十日。草花は己の性に正直に芽吹く。

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