深夜廻 - 俗・感想考察

 -続き


今回もそういうことで、俗っぽい視点やメタい疑問、それに前回触れなかったことや夜廻との関連について。

参りましょう。



 -ユイの運命は変えられない?


導入部、山の神に誘われて死へと向かうユイ。二週目をプレイしようとする方なら誰もがその運命を変えようとするでしょう。

しかしながら、それは叶いません。ユイには、仮に引き返せたとしても、もう戻れる場所がないからです。

父親は蒸発、母親は気狂い、親友だったハルは引っ越しを間近に控えて関係がギクシャクし始めており、そして愛犬のクロは亡くなって、チャコとの別れを既に済ませた後でした(リードを外して脆い板橋を渡らせていたのは)。ユイにはハルと違って「引き留めてくれる人」が誰もいなかったのです。



 -徐々に見えなくなるユイの姿


ユイが自殺したその日の夜は、ハルと約束した花火の上がる日でした。二人は裏山で一緒に花火を見ますが……当然ながら、このとき既にユイは死んでしまっていたことになります。

最期の最後、ユイはハルにお別れを言うために姿を見せたのだろうと、彼女の手記からは読み取ることができます。ところが、ハルは思いつめたようなユイの姿を見て、「わたし、引っ越すのをやめる。ユイとずっと一緒にいる」と、別れを先延ばしにしようとしてくれました。

ユイは言葉に詰まります。そりゃそうでしょう、自分は既に死んでいて、今日ここで会うのが本当に最後だなんて、今のハルに言えるわけありませんからね……。



 -町の地図を持たないユイ


ユイはハルと違って町の地図を持っていません。これはメタ的なことを言うと「現在自分がいる場所」をプレイヤーに知らせないための措置だと思います。ハルはユイを探して町を彷徨うわけですからね。

心情的なことを考察すると、ユイは「自分の住んでいる町に興味がなかった」のではないかと考えられます。両親がともにおかしくなって、ユイの拠り所は家よりもハルや愛犬のクロとチャコだったのだと思います。

町の地図を書こうと思ったら、まず中心に「自分の家」を書きますよね。地図を書くのは「自分の家に帰るため」ですが、地図を持たないユイは、どちらかといえば「家に帰りたくなかった」のではないでしょうかね。

夜暗くなるまで愛犬やハルたちと遊んで、家では夜眠るだけだったのかもしれません。正直、とても7歳か8歳くらいの女の子が耐えられるような生活環境ではないですね……。

ハルもハルで、家には誰もいないこともあって、ユイの夜遊びに付き合うことが多かったのでしょうし、だからこそ二人は強い絆で結ばれていたのだと考えることができます。



 -よまわりさんは犬がこわい?


そんな「夜遊びを頻繁にする悪い子ども」なユイやハルを、なぜよまわりさんは放っていたのでしょうか。それはおそらく、二人と常にともにいたであろうクロやチャコの存在があったからでしょう。

よまわりさんは「危険な怪異から子どもたちを守るため」に行動する存在でした。ユイとハルには愛犬たちがついており、危険な怪異も寄り付かなかったのでしょう。

だからこそ、ユイと別れ、チャコとも離れてひとりぼっちになったタイミングでハルを攫いにきたのではないかと考えられます。そういえば、前作でお姉ちゃんを攫いにきたのも、ポロがいなくなったそのすぐ後でしたね。



 -ハルを陥れようとするユイ(を操る山の神)


各章の冒頭ではユイを操作するパートがあります。そこでは「今自分がいる場所が何処なのか」を探るわけですが、そのためにユイは明かりを点けて回ったり、鍵を開けて回ったりしています。

それらの行動が、後のハルを操作するパートでさまざまな悪影響を及ぼす仕掛けとなります。たとえば図書館では、ユイが明かりを点けて通り抜けることで、ハルが通るときには踊る壷の怪が現れていたり、大鏡を覆っていた布をユイが取り払ってしまうことで、鏡写しの怪にハルが襲われてしまいます。

ユイやハルはそのことに気がつきませんが、プレイヤーは段々と「これユイのときの行動が裏目に出ているのでは?」と感じ始めるようになっています。マルチ視点で進行するゲームでは、片方で行った行動や選択が、もう片方でのシーンに影響を与えるというのはよくある演出ですが、中々にくいですよね。



 -呪いの館


今作でも前作と同様に、山の神以外の怪異も二人を狙っています。町の北にある廃屋もそのひとつ。

この廃屋ではとある一家が「不審な連続死」をして、その後火事が起きて燃え落ちたらしいのですが、外観も内装も、荒れてはいるものの「火事で燃え落ちた」ようには見えません。

どうやらこのお屋敷にはかなりの数の妖怪変化の類が入り込んでいるようで、このお屋敷に住んでいた一家も、心を病んだり命を脅かされたりしていたのだと推察できます。

ここのボスとなるのが、この館を支えている「大黒柱」。とても太いもので、節々から無数の目を覗かせるどう見ても怪しげなやつです。

これが実際どういう謂れのものなのかは分かりませんが、山の神に関連させて考えるとするなら、御神木とかそういった「山の神の影響下にあった木」を材木として建てた館なのかもしれません。前作の山の神は、その山の鉱石を掘り出していた鉄鉱師や、その鉄鉱を使っていた工場で働く人たちに、同種の呪いのようなものを掛けていましたよね。

ハルが脱出する際、館は無残にも燃え落ちてしまいますが……ハルが立ち去ると、館は元通りの形に戻っています。つまり、この館は何度でも人を誘い、その魂を喰らう「呪いの館」なのでしょう。山の神にとっては、「使いまわしのいい分社」なのかもしれません。



 -前作の山の神と、今作の山の神


あれらはおそらくのところ、「まったく関係のない、別々の山を支配する神々」とも言えるでしょうし、「同じ脈を連ねる山々の兄弟神」とも言えるかもしれませんし、あるいは「まったく同一の存在」とも言えるでしょう。この辺りは「本当に不明」としか言いようがありません。

だって、前作との繋がり性、かなり薄いですからね……舞台が隣町ということと、やはり山に巣食っているということしか関連できる部分がないんです。



 -前作(2年前)のとき、コトワリさまはどうしていたのか?


もしあれらが「まったくの同一」だったとしたら、なぜコトワリさまは前回助けてくれなかったんでしょう? その謎を解く鍵は、やはり「神社」にあります。

もともと、コトワリさまを祀っていた神社はダムの底に沈んでいました。それが最近、ダムの水が干上がってしまい、表出したために今回コトワリさまが動き出したと考えられます。

境内の「人型石畳」を穢していたゴミは、いずれも空き缶や発泡スチロールなど「水に浮くような軽いもの」ばかり。ダムに水が張っていた頃は「人型石畳の封印」は何の問題もなく機能していたのだと思われます。

ところがダムの水が干上がってしまったために、石畳の上にゴミが堆積し、コトワリさまの封印が自然と解かれてしまったのでしょう。以上を総合すると、2年前の前作の頃、コトワリさまは水の張ったダムの底で元気に人型石畳を切り刻んでいた可能性が高いですね。



 -コトワリさまとよまわりさん、強いのはどっち?


「くびと、両のて、あしの揃った五体満足のもの」ならば何でも切り刻んでしまうコトワリさま。相手が怪異だろうと神様だろうと関係ありません。

そしておそらく、よまわりさんはその条件に合致しています。面を被ったような首に、小さいものではありますが、両の手足が揃っていますからね。

もしもこのふたつの怪異が正面からぶつかりあったら? おそらく、コトワリさまがよまわりさんを退けると思います。

コトワリさまは、その物理的な破壊力も然ることながら、「悪縁を断つご利益」というのが本来の能力。よまわりさんは、山の神に近い位置にいて、それでもなお人の子を助けようとする「良い存在」ではありますが、よまわりさんに近づくことは、山の神に近づいているようなもの。

コトワリさまから見れば「悪縁も悪縁」と取られるでしょうから、他の怪異と同様によまわりさんも切り刻まれてしまうのではないでしょうかね……。まぁ、よまわりさんは不死身の怪異ですので、その場は退けられたとしても再び夜の街に現れるのですが。



 -山の神の「左手」とコトワリさまの


今作の山の神は「左手にある目玉」が何故か潰されています。これは前作において、主人公の少女が最後に取られたものに近いです。(、と言えないのは、山の神の姿が「手の集合体」であるため)

ここで重要な意味を帯びてきそうなのが、「コトワリさま」の存在。コトワリさまは悪縁を断ち切る際、どうも「左手」を真っ先に代償に選ぶのようなものがあるように見受けられます。ユイの前に初めて姿を現すとき、落としていったのも左手でした。

ということは、この山の神の左手にある傷は、かつてコトワリさまがつけたものなのか……? あるいは今回のことで、ハルやユイの周りで山の神との悪縁を断ち続けた結果が「山の神の左手」に表れているのかも……?

それに確か、「山の神の誘い」からハルを助けに飛んできた際、山の神を奉っていた(封じていた?)と思われる仏像を思い切り断ち割っていました。コトワリさまのから考えるに、真っ先に傷ついたのはおそらく「左手」。あの傷はこのときについたものかもしれませんね。

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