深夜廻 - 感想考察

 -初めに


深夜廻は2017年8月24日に発売された、夜廻の続編ホラーゲーム。その考察を何故今やるのか?その理由ワケは!!


前回と同じなので割愛します!!!


なおこの考察には徹底的なネタバレが含まれます。そのほかの注意事項は前回と同様です。ご了解ください……。

では深夜廻考察、はじめまーす。



 -ハルとユイ、異なる二人の視点


深夜廻の物語は、赤いリボンの少女ユイと、青いリボンの少女ハルの二人の視点を交互に操作することで進む。

基本的な構成は、ユイパートで「何処だか分からない場所」を模索し、ハルパートで「ユイがいた場所」を捜索するという流れ。

今回も前作夜廻と同様に、夜の街ではお化けや怪物が少女らを狙って蔓延っている。二人は懐中電灯を手に、夜の街を彷徨い歩くこととなる。



 -夜の街の案内役、チャコ


物語中、何処に行けばいいか分からないハルをサポートするのは、ユイの愛犬チャコ。

前作よりも広大となったマップで迷わないように、今回もフェンスや巨大な怪異が道を塞いで順路を作ってくれている。親切。

また、チャコは小さいながらも勇敢であり、自分よりも遥かに巨大な怪物に対して、臆することなく吠え立て、ハルの身を守ってくれる頼もしい味方。

前作でもポロがそうであったように、チャコも主人であるユイや、主人と親しいハルのことを守り、導き、励ましてくれる。



 -古の断ち神、コトワリさま


前作では「よまわりさん」という存在が街を徘徊していたが、今回も「コトワリさま」と呼ばれる存在が街を徘徊している。

コトワリさまは血に塗れたように真っ赤な裁ちバサミを持った手の姿で、「両の手足と首の揃った、五体満足の姿のものを切り刻む」性質を持った怪異。

「夜中に起きている悪い子どもを攫って閉じ込める」よまわりさんと比べると、かなり性質の悪い怪異と言える。

しかしながら、コトワリさまはよまわりさんと違い、出自がはっきりとしているれっきとした神様である。



 -ダムの中の社殿


ハルとユイの住む街の北側にあるダムの、底に沈んでいた古い村の中にある神社跡がコトワリさまの社殿。

コトワリさまのご利益は、ずばり「悪縁との縁切り」。これは京都にある『安井金毘羅宮』という神社で実際にあるもので、コトワリさまやコトワリさまを祀る神社の絵馬に書かれている内容は、おそらくそちらを参考にして創られたものだろう。

この「神様による縁切り」は威力というか影響力が凄まじいらしく、一度ひとたび願えばあっという間に「悪縁」から解放され、とんでもないところに転がっている「良縁」と殆ど強引に結ばされる……という体験談が中々の数散見される。



 -コトワリさまのご利益


コトワリさまは既に社殿を投棄され、信仰を失いつつある神様だが、人々の「もういやだ」という言葉に引かれて現れては、その人がそのとき求めた「悪縁」との縁を断ってくれる。

「誰々との悪縁を断ってほしい」と願えば、その誰々が惨殺され、「誰々なんか嫌いだ」と願えば、その誰々が惨殺され……といった具合である。解決方法が非常に強引かつ凄惨であり、またどんなに軽い動機であっても「もういやだ」と口にしてしまえば、コトワリさまは現れてしまう。

ハルとユイの住む街では、この「コトワリさまの(殆ど強引な介入による)ご利益」によって、多くの不吉や不可解な死が連鎖していたと思われ、それによってこの街には前作よりも多くの、より強大となった怪異たちが蠢いている。



 -暗躍する死山の神


今回も最後に出てくるのは山の神であるが、前作の山の神が「人でできた無数の目を持つ顔と一つ目の両手」という姿だったのに対し、今作の山の神は「無数の手と目でできた巨人」の姿をしている。

これはこれらの神々が「人々を糧として喰らっている」事実を表す。つまり、これらの神々はさまざまな事情が絡んで既に死の淵にあり、生命力を得ようとせんがために麓の人間たちを喰らう山の怪と化していると考えられる。

前作の山の神は、「よまわりさん」を利用して子どもたちを喰らっていたが、今回の山の神は、なんと「直接子どもたちに呼びかけて」死へと追いやっていた。



 -狙われたハル


この深夜廻という物語では、「全てのものがハルを死に追い込もう、誘い込もうとする」形になっている。

それというのも、ハルは一度、山の神に誘われて死の山に踏み入ったことがあるのだ。

その窮地を救ったのがユイであり、冒頭でユイが墓を建てていたもう一匹の愛犬・クロが、そのとき身代わりとなって死んでいるのである。

ボロボロの家庭環境、唯一の拠り所であったハルの引越し、そして愛犬クロの死によって、ユイは身も心もボロボロとなって、ついには山の神に誘われるまま、自ら死を選んでしまう。



 -利用されたユイ


重要なのは、「ここまでが冒頭である」という事実である。

山の神は、そうして死んだユイを利用して、今度はハルを追い詰めにかかるのだ。

いなくなってしまったユイを探すハルは、ユイの影を追ってさまざまな危険へと飛び込んでいく。

これがゲームになると、「ユイパートでやった行動」が「ハルパートで裏目に出る」という構図となる。実に巧妙である。



 -結果として二人を助けて回るコトワリさま


山の神に操られるユイを救うのが「コトワリさま」であることは言うまでもない。

ユイパートはいつも「突然コトワリさまに襲われる」シーンで途切れるが、その直前でユイは「もういやだ」と口にしているのである。

ユイの願いを聞き届けたコトワリさまが、「山の神との悪縁」を断つことで、ユイは山の神の支配から解放されていると考えられる。

それが「一時的でしかない」のは、コトワリさまの影響力が弱く、山の神の執念が強いという、単純なパワーバランスによるものだろう。

また、山の神は「縁の強さ」をそのまま自らの力に変えることができるので、「ユイとハルの縁の強さ」が、山の神に力を与えていたとも考えられる。

さらに、ハルの前に現れるコトワリさまは、何れの場合でも「その場に巣食うほかの怪異」を断ち切って結果ハルを救ってくれていたり、別の「五体満足の供物」を差し出せばそれで満足して帰ってくれる。



 -恐れを克服し、怪異に立ち向かうハル


ハルは物語のなかで「襲ってこないお化け」や「助けを求めるお化け」と出会うことで、怪異を恐れない心の強さを次第に獲得していく。

音を立てなければ襲ってはこない、明かりを消せば大人しくなる、目を合わせなければ平気……そうやって怪異たちをやり過ごし、最後にはコトワリさまや山の神に対しても「あなたなんかこわくない」と面と向かってはっきりと告げるのである。

コトワリさまは「人々に悪縁を断ち切るご利益を齎す神様」である。それを受け入れる強さを示したハルに、コトワリさまは自らの力を宿したものと思われる赤いハサミを託してくれる。

ハルはそのコトワリさまのハサミを使って、ついには山の神を打ち倒すのだった。



 -弱かった自分を認め、死を受け入れるユイ


「もういやだ」と弱気なことを言うたびに、コトワリさまに悪縁を断ち切られ続けたユイ。

最後に残ったハルとの縁も、山の神に利用されてハルを死なせてしまうところまできていた。

それでも、最期の最後まで、ハルとの縁を諦め切れなかったユイを、ハルのほうから断ち切られてしまう。

ハルにとって、ユイとの縁は最早「断ち切るべき悪縁」となっていたのである。

代償としてハルは左手を失い、ユイはハルとの縁を断つこととなり、それは凡そ「ユイの心残り」を断ち切ることとなった。

ユイはハルとの最後の別れの間、終始無言であり、その胸中が如何なものかは知ることは出来ないが、「もう、何も欲しくない」とまで願った彼女の悪縁を「コトワリさまが断ち続けた」のは、きっと二人が「もういやだ」と断り続けた結果なのだろう。



 -実はおっちょこちょい? 早とちりなコトワリさま


コトワリさまの性質とご利益は前述のとおりで、解決方法が非常に強引であるというのも前述のとおりであるが、コトワリさまが「どうしてそんなに強引なのか」は、実際謎である。

本来、「縁切りの神様」は同時に「縁結びの神様」でもあるとされる。しかし、コトワリさまはどうやら「縁切り」の方面でしかそのご利益を求められてこなかったようで、その願い方・使い方も、段々と「呪詛」や「呪殺」じみたものに変わっていったようである。

「誰々との悪縁を絶ち、もっと良い縁を結びたい」というのが本来あるべきものだが、「誰々と上手くいかない。もういやだ」とか、「誰々なんて死ねばいい。もういやだ」なんて頼まれていたら、どんどん「断ち切る力」が強くなってしまうのも当然と言える。

そういった長い下積みがあるからこそ、コトワリさまは「もういやだ」という単純な「嫌悪感」を敏感に察知し、「それを齎しているもの」を物理的に断つことで「悪縁を断っている」のだと考えられる。

しかしながら、このというやり方によって、「望んでいない結果」になることは多かっただろうと思われ、故にコトワリさまは社を移されることなく、廃村とともにダムに沈められていたのだと推測する。

その神社においても、「五体満足のものを切り刻む」性質を「人型の石畳」によって封じ込められていた。ゴミの散乱によってその封印は効力を失っていたが、かつてはそれによって「悪縁を物理的に断ち切る力」を封じておいて、「良縁を運んでくれる御利益」だけを引き出していたものと思われる。

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