言えない事実

─ 翌朝。

「行ってきます!!」

「どうしたの? こんなに早く」

「ちょっと早めに行って、課題するの」

「そうなの、行ってらっしゃい」

私は、勢いよく家を出る。

私の作戦は、朝早く学校へ行き、誰にも見つからないうちに遊佐君の靴箱にラブレターを入れておくこと。

なんとか成功させたい、いや、させなくてはいけないのだ。

「大丈夫だよね……」

前日、遊佐君のファンという人から靴箱の位置をしっかりと教えてもらった。

大丈夫。大丈夫。

もし、仮に誰かに見つかっても……。

本人に見つかるよりかはいいだろう。

学校の玄関に着くと早速、遊佐君の靴箱の前に立ち、鞄の中からあのラブレターを出した。

「よし」

私はそっと遊佐君の靴箱の中にそれを入れる。

でもこの時気づくべきだった。

背後に人が近づいてきていることに……。

任務を完了することができて、ほっとしながら自分の教室へ向かおうとした。

が、その時。

「ねぇ、」

「っ!!!!」

急に背後から腕を掴まれ、私の心臓は激しく暴れた。

「っ」

後ろを振り返ると、そこには……。

「嘘……」

「ねぇ、これ、今入れたよね? 俺の靴箱に」

「……」

“遊佐君”がいた。

「えっと……」

頭の中が真っ白だった。まさか一番バレてはいけない人にバレるなんて思ってもいなかったから……。

遊佐君は固まる私の腕をゆっくり放した。

そして、

「ごめん、怖がらせた?」

そう言って軽く笑顔を見せてくれた。

「あ、いや……あの……」

私はその笑顔になるほどな、と思ってしまった。

だって、誰だってドキドキしてしまうような笑顔を自分に向けられたら、そりゃ好きになってしまうだろう。

そのくらい彼の笑顔には破壊力がある。

「これ、君が入れてたよね? ごめん、見てたんだけど

……」

「あ、えっと、それは……っ」

正直、テンパってしまった。

“違う”

そう言おうとしたのに。

「あ、ごめん。そんな追及することでもないよね。困らせたね」

「……っ」

「名前は」

「え……」

「名前、教えて」

「えっと……園田です……」

「下の名前だよ」

「っ」

彼が私の顔を覗き込むようにそう言った。

私は震える唇で、

「美月です」

そう言った。

どうしてこの時、このラブレターは私が書いたんじゃないって、私からのラブレターじゃないって、そう言えなかったんだろう。

なんで……言えなかったんだろう。

後悔しても遅いのに。

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