1通のラブレター。/ゆーり
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ラブレター
何げない日常。何も変わらない生活。
学校へ行き、家に帰り、勉強して、寝て……。
そんな私の生活が一通のラブレターでこんなにも変わるなんて、思ってもみなかった。
私は平凡な高校年生、
友人もいない、恋人もいない、お洒落もできない…勇気がない。そんな私は人と関わるのを避けてきた。
きっとこのまま卒業を迎えるのだろうと思っていた。
学校に到着する。
……が。
「え」
私は自分の靴箱の前で静止した。
最初は何かのいやがらせかと思った。
「何これ ─ …」
私の靴箱の中の上履きの上に置かれた真っ白な封筒。
その白い封筒を手に取った。ゆっくりと中身を取り出すと、
「っ」
そこには ─ 。
“
ずっと大好きです”
の文字が。
「これって……」
私はこの時気づいた。これはラブレターだと。
差出人の名前はない。
“遊佐君”という人物へ宛てた手紙だった。
しかも入れる場所を間違えている。
「どうしよう……」
自分には全く関係のない手紙だ。でも、捨てるわけにもいかない。
これを書いた女の子は、遊佐君という人に想いを寄せていて、これを書いたということは……。
私はそれを自分の鞄の中に入れると、そそくさと教室へ向かった。
「……」
ガヤガヤと騒がしい教室。
私はそっと自分の席に座った。
どうしよう、あの手紙。
遊佐君って誰だろう?
私のクラスの人ではない。
チラリ、辺りを見てみる。
周りの子は制服のスカートも短くして、お化粧したり、高校生活を楽しんでいるが、私は友達もいないし、周りの人たちからも避けられている気がするし……。
だからといって自分から声をかけて友達になる勇気もない。
「はぁ……」
ため息をつくと同時に、ホームルームを知らせるチャイムが鳴った。
─ 昼休み。
「よし、」
私はいつもお昼は屋上でお弁当を食べている。
だから昼休みのチャイムとともにお弁当を持って屋上へ向かう。
屋上にはいつも誰もいない。まぁそもそも誰かいたら私はここには来ないだろう。
いつもの定位置に座り、お弁当を広げて、
「いただきます」
毎朝お弁当を作ってくれるお母さんに感謝しながら食べる。
まだお弁当の中身が残っているが、
「っ」
何やら屋上の扉のところから声が聞こえて私は急いでお弁当箱をしまい、隠れた。
すると、
「誰もいないね」
「そうだね」
女の子が二人出てきた。
すごく可愛くて、私もあんな風になりたいなって思わせるような二人だった。
彼女たちは別にここでお昼ご飯を食べるわけではないらしい。何も持っていない。
「……あー。やっぱり告白って屋上かな」
「なんで」
「私の中では、屋上って鉄板なんだよね」
「確かにそうだね。で、告白するの? 遊佐君に」
「っ」
私は女の子の口から出た言葉に思わず体を揺らしていた。
遊佐君……? 遊佐君って私の捜している……。
多分、あのラブレターの相手はきっと今この二人が話している人物と同じだと思った。
「うん、する!! でもね、遊佐君ってすごいモテるからさ……私以外にも告白してくる子多いからね……無理かもしれないんだけどさ」
「確かに遊佐君って彼女作らないよね。でも、女遊びが激しいとかそういうイメージもないよね」
「うん、そうなの! そこがいい!」
話を聞く限り、どうやら女の子の一人はその遊佐君に告白をするようだ。
「明日、放課後、ここの屋上で告白する」
「頑張れ!」
「うん、ありがとう」
やはりあのラブレターにある宛名は、遊佐君のことなのだろう。
ラブレターももらって、女子からも人気で……。
どれだけ素敵な人なんだろう。
―――――…
─ 翌日。
「行かなくちゃ ─ …」
私は放課後、屋上へと向かった。
あの女の子よりも、遊佐君よりも先に屋上に到着していなくてはならないから、走って屋上まで向かう。
「はぁ、はぁ……」
屋上の重い扉を開けて、私は辺りを見回した。
「よし、まだいない……」
私はこっそりと屋上の隅に隠れた。
もしバレたとしても最初からここにいましたって顔をすればいい。
そもそもこれから来る二人とは面識がないし……。
私はソワソワしながら二人を待った。
十数分後、扉が開く音がした。
私は気づかれないようにそっと視線をそこに動かす。
「……っ」
そこに来たのはすごく綺麗な顔をした男の子。
「カッコいい……」
こんな人、学校にいたんだ……。
背も高いし、綺麗な黒髪も、優しい雰囲気も…全てが女子を魅了してしまうのも無理はないと思った。
彼は辺りに誰もいないことを確認して空を見上げる。
彼のその様子を見て、絵になるとはまさにこのことだと思った。
すると、
「あ、」
ギーッと音がして、屋上の扉が開く。
「ごめんね! 遅れちゃって!」
「ううん、いいよ。全然」
ニコリ、笑った彼。
この人が遊佐君。
この人があのラブレターの……遊佐君?
「あのね……」
「うん」
「わかってるかもしれないんだけど……」
女の子は本題に入る。
「私、遊佐君のこと好きなの」
しっかりとした口調でそう言った。
人の告白を聞くなんて、私ってかなり性格が悪い。
そう思いながらも、私はこの人があのラブレターの遊佐君であるとほぼ確信した。
「ごめん」
だが数秒後、遊佐君の口から出たのはごめんの一言。
遊佐君はひどく苦しそうな顔をしていた。
あぁ、この人も傷ついているんだと思った。
私は生まれてから、一度も告白されたこともしたこともない。
誰かに想いを伝える勇気は、きっと私が想像する以上のものだと思う。
女の子は、
「うん……なんとなく、わかってた……」
泣きそうになるのを必死にこらえようとしている様子だった。
女の子はスカートの裾をギュッと掴んで、唇を噛みしめ遊佐君を見つめる。
私まで苦しくなった。
失恋をするって、こういうことなんだ。
こんなことを言うのは失礼な話かもしれないが、羨ましいとさえ思った。
恋すらできない私。
告白して……結果はどうであれ、その人のことをただただ想って……。
女の子は「ありがとう」と言って遊佐君に背を向け、この場から立ち去った。
遊佐君は悲しそうに女の子の背中を見ていた。
私は遊佐君が去ったあとに、そっと屋上から出た。
「あの人が……遊佐君」
私は歩きながら遊佐君の名前を呟いていた。
あの人が遊佐君。
あの人が……。
あのラブレターの相手。
私は鞄を持つ手に力を込める。
ラブレターの相手は学校一カッコよくて、有名人で、そして ─ 。
人気者だった。
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