第15話 【幕間】ヌルリの美学

《ヌルリの美学》第一回目


 こんにちは、触手怪獣ヌルリです。

 初めて生配信というものをしているので、粗相があったら申し訳ありません。気楽にご覧いただければと思います。


 まず、全国にいらっしゃる女性にお詫び申し上げます。

 自分が衣服を食べてしまい、羞恥心に耐えなければならなかった被害女性の方々、誠に申し訳ありませんでした。その節は大変お世話になりました。美味しかったです。

 また、今後自分に衣服を食べられてしまうかもしれない女性の方々、先に謝っておきます。申し訳ありません。美味しそうに見えるあなたの服が悪いのです。

 そして、衣服を造ることに尽力いただきました皆様にも、改めてお詫びと感謝を申し上げます。食べてしまって申し訳ございません。しかし、素晴らしい服を造り、販売してくださってありがとうございました。


 さて、世間では自分は「触手怪獣ヌルリ」と呼ばれていますが、他に「紳士怪獣」だとも呼ばれているようです。なぜなのかはわかりません。自分は下賤な怪獣です。

 本日は、悪の組織の問い合わせフォームに寄せられる質問と、リアルタイムでSNSに寄せられた質問に答えていきたいと思っています。SNSでは「悪の組織チャンネル」のアカウントをフォローし、ハッシュタグ付きで「ヌルリの美学」と入力してくださいね。お願いいたします。


 では、よく問い合わせフォームに寄せられる質問から参ります。ええと……。


『ヌルリの触手は何本ですか?』


 十二本です。悪の組織図鑑にも掲載されています。我々にも印税が入ってくるので、ぜひとも買ってくださいね。

 では、次。


『ヌルリの触手は焼くと美味しいらしいですが、自分で食べてみたことはありますか?』


 はい、食べてみたことはあります。人間の中にも爪を噛んで食べたり、鼻くそを……という方もいらっしゃるでしょう。それと同じです。まぁまぁ美味しいです。

 しかし、主食にはなりません。毎日食べたいというものでもありません。残念です。


『ヌルリはどんな素材が好きですか?』


 衣服の素材、という意味でしょうか?

 アンゴラやカシミアといった羊毛の毛織物が好物ですが、絹や綿もまぁまぁ好きですね。ナイロンやポリエステルといった合成繊維はあまり好きではありません。しかし、食べることはできます。

 では、次はSNSからの質問に答えていきましょうか。ええと……。


『襲う女性は好みで決めていますか?』


 人間の女性に好みはありません。ただ、毛織物を着ており、体の面積が広い女性は好きですね。ヒーローチャンネル的には良くないビジュアルかもしれませんが、自分は楽しく食事できます。

 あと、怪我をしている女性、妊娠中の女性、着物を着た女性やドレスを着た女性などは、意図的になるべく狙わないようにしています。怪我が悪化してはいけませんし、妊娠中は体が冷えてはいけません。胎児にも影響しますからね。着物は高価なものも、どなたかの形見のものもあるのではないでしょうか。訪問着との違いもあるみたいですが、不勉強な自分にはそこまでの判断ができません。

 食べてみたいのは山々ですが、個人の思い入れが強い衣服には食指が動きません。触手ではありませんよ、食指です。

 では、次ですね。


『男性は襲わないのですか?』


 いい質問ですね。

 男性の衣服のほうが生地のボリュームがありますからね。腹は満たされるでしょう。しかし、重大な問題があるのです。

 自分はオスです。至ってノーマルな嗜好です。

 あなたは、ヒーローチャンネルで同性の裸を見たいですか?

 それが自分の答えです。


『なぜ下着まで溶かさないのですか?』


 これもいい質問です。

 放送倫理的な問題もありますが、それはこの際置いておきましょう。

 自分は「見えない部分」にこそ女性の美しさが内包されていると考えます。下着の下に興味はあれども、そこを他人のいる前で暴いてしまうのは、大変野暮な行為です。

 一対一で女性と対峙したとき、自分一人の目で「隠された部分」を見つめることこそ、最高の瞬間なのではないでしょうか。

 そして、その「秘匿された部分」を想像することこそ、男性に与えられた美学なのではないでしょうか。


 女性を恥ずかしがらせるのは、自分にとっては食事のスパイスのようなものです。女性を怖がらせ、泣かせて得るものではありません。

 男性諸氏においては、そのことを肝に銘じておいてもらいたいものです。


 ……あぁ、どうやら今「ヌルリの美学」がトレンド入りしたみたいですね。ありがとうございます。ありがとうございます。

 では、次の質問へ行ってみましょうか。


『オーキッドパピーとジャスミンバニーはどちらが優秀な上司ですか?』


 ……答えづらい質問が来ましたね。

 パピー兄さんは冷静に戦局を見て指示を出してくれる司令塔でしたが、バニー姉さんは我々を率い、導いてくれる女神のような存在です。タイプは違いますが、どちらも優れた上司です。優劣はつけられません。


『オーキッドパピーとジャスミンバニー、どちらが好きですか?』


 バニー姉さんです。即答すぎましたか? すみませんねぇ。

 服を溶かしても怒られませんし、我々のことを気にかけてくれますし、常に向上心があり尊敬できますし、優しいし、柔らかいし、……本当に美味しそうですよねぇ。


 ……え? なに、なに? 美味しそう、の意味?

 あぁ、それは「ご想像にお任せします」という答えで。


『布を食べるのではダメですか?』


 いい質問です。

 しかし、素材そのままを食べるより、デザインや縫製で味付けされた衣服のほうが遥かに美味しいのです。できれば、美味しいものを食べたいものです。


『着なくなった衣服を送りましょうか?』


 ありがたい申し出ですね。

 しかし、前述の通り、自分は恥じらう女性も大変好みます。もう一度言いますよ。衣服が溶かされ、恥ずかしがっている女性がセットでないといけません。

 ですから、着なくなった衣服を着たあなたが、自分の目の前にやってきてくださるなら、その提案に賛成いたしましょう。

 なので、着なくなった衣服だけを悪の組織へ送りつけてくるのはおやめください。


 え? バニー姉さんに着てもらえばいい?

 いやいや、バニー姉さんには恥じらいなんてありませんよ。姉さんはセクシーな格好を好みますし、溶かされても気にしませんし、基地内でもほぼ裸で――あ、それ以上はダメですか。姉さんストップですか。仕方ありませんね。

 衣服だけを自分宛てに送るのはおやめください。それが答えです。


『弊社のビデオに出演してくれませんか?』


 お断りいたします。

 今は触手怪獣としての矜持があります。女性を辱めたくはありません。

 しかし、興味がないわけではありませんので、ヒーローチャンネルで必要とされなくなったとき、またお声掛けください。


 では、次で最後の質問です。ええと……。


『スミは吐きますか?』

『触手は茹でたほうが美味しいですか? 茹でると赤くなりますか?』

『たこ焼きは好きですか?』


 ……だーれーがー!

 タコだあああぁぁぁぁ!!

 ウルアアアァァァァ!!




 悪の組織チャンネル《ヌルリの美学》第一回目、ラストは怒りで真っ赤になったヌルリが暴れている様子を写して終了。

 自ら「総監督」と名乗り始めたワルヴは、ヌルリに破壊されていくスタジオの様子を見ながら、嬉しそうに手を叩いている。

 キレたヌルリは手がつけられない。触手をすべて切り落とすか、落ち着くまで放っておくしかない。撮影スタッフらしいサウザンズは皆、触手が届かないところに避難している。切り落とすことはしないらしい。

 それにしても、いつの間にか悪の組織チャンネルが大所帯になっていたことに驚いたわ。サウザンズが無償で手伝っているわけでもなさそうだし、機材も増えて良いものを使っているみたい。……余程儲かっているようね。


「バニー様、どうだった?」

「いいんじゃない? 二回目も三回目も最後の質問でヌルリをキレさせて、様式美にしてしまえばいいわよ」

「了解だぜ。スタジオはノアの旦那が直してくれるから安心だ」


 ワルヴに助言をしながら、モニターに流れるSNS上の感想を流し見て、私は心の中で嘆く。

 私、サウザンズの目のあるところで全裸で過ごしたことなんてないのに! 半裸くらいならあるかもしれないけど、全裸はないわよ!

 ヌルリのバカ! また変なイメージがついちゃったじゃないのよ、もう!




▼▽▼ 問題(8) ▼▽▼

「双子怪獣こめった・まいった」の出現場所に共通するのは。


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