第10話【幕間】スネークの苦情処理

 悪の組織には情報部が管理しているWEBサイトがある。管理人はスネークだ。

 以前はヒーローチャンネルのオンエアに合わせて更新していたが、SNSのほうが効率が良いので、日々の情報発信にはそちらを利用している。とは言っても、オンエアの時間を知らせるくらいだ。

 近頃はワルヴがオンエアに合わせてキミ・チューブで解説をしているので、実況をするのはやめている。


 サイトには問い合わせフォームが設置してあるが、当然、苦情ばかりが寄せられている。家が破壊された、子どもが怪我をした、衣服が溶かされた、特別怪人怪獣警報のせいで会社に遅刻した、などだ。

 依頼もある。たいていが殺人の依頼だ。稀に所有している土地の破壊許可などが所有者から寄せられる。応援メッセージが届くのはさらに稀だ。


 スネークはすべての問い合わせに目を通し、重要かそうでないかなどを振り分ける。必要があればボスに報告し、判断を仰ぐ。山の所有者なども、きちんとチェックした上で破壊活動をしないと、依頼者が偽者の可能性もある。

 悪の組織のやることなので、間違えて破壊しても構わないのだが、また苦情処理をしなければならないのはスネークだ。かなりの手間である。手はないのだが。


「朝までのフォーム未読は……げっ、八十もあんのかい」


 八十二件の問い合わせを、スネークはいつも通りツッコミを入れながら処理し始める。


『茨城県・三十代・女性・昨夜車を運転していたときにケンタウロスとすれ違い、サイドミラーが壊れました。弁償してください』

「昨夜ケンはメディの店で飲んでたっての。茨城までは行けないな。見間違えたか、嘘だな。はい、次」


『埼玉県・二十代・男性・バニー様が俺の前に出てきてくれません。いつになったらお仕置きをしに来てくれますか?』

「バニーはSM嬢じゃねえよ。はい、次」


『東京都・六十代・男性・庭のシェルターに何者かが侵入して非常食を食い荒らしていた。お前たちではないのか?』

「これは警察の案件だな。悪の組織に問い合わせる前に、早く通報しろよ。個人宅の窃盗など悪の組織のやることじゃねえ。はい、次」


『長野県・五十代・女性・果物戦隊を炒めつけるのはやめてください。かわいそうです』

「果物だからって炒めてねえよ。美味そうだな、オイ。痛めつけられてんのはこっちだ。はい、次」


『埼玉県・十代・男性・果物せんたいをいじめないでください。かわいそうです』

「お前、選択肢変えただけの、長野のババアだろ。IP同じだぞ。はい、次」


『東京都・五十代・男性・先日ご挨拶をした、警視庁組織犯罪特別対策室の上杉です。ジャスミンバニーさんと連絡を取りたいのでこちらにお邪魔いたしました。返信は下記アドレスにお願いいたします』

「特対室! バニーのやつ、特対室に会ったのか!? 面倒くせえなぁ。これは保留」


『愛知県・四十代・女性・名古家市中区○○、△△マンションに住む□□って女を殺してほしい。十万円支払うから』

「殺人依頼は通報、通報。十万ぽっちで悪の組織が動くわけねえだろ。はい、次」


『岐阜県・三十代・男性・隣は空き部屋なのに毎晩女の声が聞こえてきます。悪の組織の基地なんですか? ジャスミンバニーですか?』

「んなわけない。隣の隣に女が住んでいるんだろ。はい、次」


『三重県・二十代・女性・武将戦隊の出番が少ない気がします。どうか東海地方で暴れてください』

「……これは要検討だな。武将戦隊はコストがかかりすぎるからなぁ。武具が直らないうちに制圧しちゃうとヤベェんだよな。大人の事情ってやつだな。はい、保留」


『埼玉県・二十代・男性・ジャスミンバニーの正体って、グラビアアイドルの嶺不二子ですよね?』

「そこまでナイスバディじゃねえわ、バニーは。はい、次」


『東京都・四十代・男性・悪の組織で雇ってください。殺人以外の犯罪行為はすべてやってきました。どうか働かせてください!』

「ガチの犯罪者は必要なし! はい、次」


『栃木県・三十代・男性・アイドル戦隊のドームツアーはいつですか?』

「運営会社に聞け。あいつら、ドームツアーできるほど有名でもないだろ。はい、次」


『東京都・二十代・女性・早くジャスミンバニーをクビにして。目障りだわ』

「……アップルレッドか。はい、次」


『長野県・三十代・男性・悪の組織はなぜ世界制服を企んでいるのですか? 東京ではなくアメリカのニューヨークなどで暴れたほうが、世界を制服する近道だと思います』

「征服より制服のことを考えすぎだろ、お前。海外には海外の事情があんの。あっちはあっちでヒーローが活躍して、映画にもなってるじゃねえか。興行収入が高くて羨ましいね、まったく。はい、次」


『東京都・二十代・男性・ジャスミンバニーは宇佐美茉莉花ですね?』

「……ボス案件だな。海外串サーバー使ってるな、コレ。辿れるか?」

「おぅ、やってみるわ」

「やめてほしいよな、個人特定すんの。ただでさえリーダーズの人員が少ないんだから。はい、次」


『東京都・四十代・男性・悪の組織で雇ってください。何でもやります! 殺人は未経験ですが、命令があればやります! どうか働かせてください!』

「お前はダメ、絶対!! はい、次」


『岩手県・十代・男性・今日、海でなにか光りました。悪のそしきの新しいかいじゅうですか?』

「岩手? 管轄外だが……北部に一応連絡入れておくか」

「あぁ、それ、技術部が送ったサウザンズじゃねえか? 北部で大量に必要になったとかで、急遽製造したって聞いてるぜ」

「なるほど。じゃあ、連絡入れなくてもいいか」

「おう」


 スネークの問い合わせフォームの処理は続く。毎日続く。八匹にも個体差があるので、情報の精査も多少おざなりになりながら、今日も続いている。


 岩手県で発生した妙な光の正体が判明するのは、もう少し先の話。




▼▽▼ 解答(5) ▼▽▼

アナちゃんズ。

「アナちゃん」だけでは不正解。


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