第19話


 そしてその夜は訪れました。


 暑くも寒くもない心地のよい風が吹く夜でした。


 窓辺でうたた寝をしていた私は誰かが私の名前を呼んだような気がして目を醒ましました。


 導かれるようにして外に出ると空の高いところに落ちてきそうなくらい大きな満月と、騒がしくはためく無数の星が輝いていました。


 敷地一面に咲いた小さな白い花たちが私の足元を明るく照らします。


 その先に彼の大きなシルエットが見えました。


 彼は枝葉を広げその腕に私が飛び込むのを待っていました。


 しなやかで逞しいそれらを支える太い幹。


 今にも動き出しそうな躍動感のある彼の肢体。


 その肢体にはっきりとその影は見えました。


 私が足を1歩踏み出すと白い花びらが足の裏をくすぐり、私は笑い声をあげました。


 風が吹いて私の着ている白いワンピースを脱がしました。


 月明かりが私の躰を隅々まで清め、夜風は上等なシルクよりも柔らかく私の躰を撫でていきます。


 彼はじっとその様子を見つめていました。


 清められた私の躰は彼の視線によって脈打ち始めます。


 私の躰を愛撫するかのように彼の香りがここまで届いてきました。


 それはいつもよりも濃く甘く、少し荒々しい香りでした。


 彼も私を激しく求めているのです。


 それが分かると私の躰は躰ごと心臓になってしまったかのように鼓動しました。

 

 私は彼の肢体から伸びるその影を見つめながら、一歩一歩歩み寄りました。


 その部分だけ別の生き物のように猛々しく今にも爆発しそうです。


 途中立ち止まり短く浅い吐息を漏らしてしまいます。


 彼は終始無言でした。


 私も言葉を発することはしませんでした。


 これから始まる儀式に言葉は必要ありませんでした。


 言葉はそれらを壊してしまうようでもありました。


 彼の目の前まで来ると私は私の胸を、腹部を、柔らかな内腿を彼の躰を巻きつけました。

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