第18話


 会話は必要最小限にとどめました。


 なるべく早く帰ってもらうために、心配させすぎない程度に体調の良くないふりをしました。




 ですがある日、ついに私は大家からプロポーズされてしまいました。


「僕と一緒に都内の家で暮らしましょう。良い医者も知っています。ここにはいつでも好きな時に来ればいい」


「少し考えさせてください」


 少しと言いながら、1週間、1ヶ月、3ヶ月と私は返事を伸ばしました。


 そうしているうちに大家が心変わりをするかも知れないと思ったからです。


 案の定、私がなかなか返事をしないでいると、大家の男性は私への気持ちが冷めていったのか次第に足が遠のき、私のところへやって来ることもなくなりました。


 また自由な生活が戻ってきました。 


 それでも万が一に備えて全裸になるのは止め、ゆったりとした体を締めつけない木綿の白いワンピースを着ました。


「識子があの男と一緒に行ってしまうのではないかと心配したよ」


 彼は言いました。


「まさか。私はずっとここにいる。ずっとずっと。絶対にあなたから離れない」


 私は彼を抱きしめました。


 冷たいような温かいような彼の温度を感じます。


 私はそっと彼に口づけをしました。


 今までに何度も私たちは口づけを交わしました。


 その度に私は子宮をぎゅっと掴まれるような疼きを感じました。


「識子、僕の美しい人」


 彼はいつも私の髪を優しく撫でながらそう囁きました。


「あなたともっと一つになりたい」


 私は彼の幹をそっと咬み、舌を這わせました。


 ぶるりと彼が身震いするのが分かりました。


 でもその後は、ただ風が彼の枝葉を揺らすだけで、私は1人火照った体を持て余しました。


 私は生まれて初めて、自分の躰が男性を欲するという感覚を知りました。


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