第15話
それから変わらない日々が続きました。
気づくと私は34歳になっていました。
世間の女性はこの歳になると異常なまでに結婚を意識し始めます。
彼女ら曰く、できれば20代のうちに結婚して30代で子どもを産みたいと言います。
両方ともしたくない私には彼女らの気持ちは理解できませんでしたが、「そうだよねぇ」と相槌を打ちまた。
私は以前に増して努めて周りと同じように振る舞うようにしていました。
人と違うということは、人から傷つけられることでもあるのです。
余計に傷つきたくはありません。
それに皆と上手くやっていくには協調性が必要です。
協調性とは周りと一緒であることです。
最近、私は息苦しいだけではなく急に胸がきりきりと痛むことがあり、そういう時は店内の花の間にうずくまって深呼吸をします。
そうすると痛みが和らぐのです。
彼と出会ったのはそんな時でした。
その日私はいつもと同じように週末を使って1人で山に登りました。
その帰り道です。
私は道に迷ってしまいました。
いくら歩いても町にたどり着きません。
来た時とは違う見覚えのない景色を心細く歩いていると1軒の民家に突き当りました。
周りに他に家はなく、その1軒だけが忘れさられた存在のようにひっそりと佇んでいました。
そしてそこに彼はいました。
彼を見た瞬間、雷で打たれたような衝撃が走りました。
今まで見たことのない大きな木でした。
プラタナスによく似ていましたが葉の型が少し違います。
近寄ると——彼に歩み寄る足は震えていたと思います——なんとも言えない良い香りがしました。
何の木か分かりませんでしたが、彼がオスの木であることが私には分かりました。
古い家には誰も住んでいないようでした。
荒れ果ててはいましたが彼のいる広い敷地はこの家の庭でした。
「こんにちは」
私が挨拶すると彼は深い緑の葉をさわさわと揺らしました。
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