第11話

 その日も誰かが家族旅行で行った温泉地のどこにでもあるような温泉まんじゅうを食べながら、3人の子持ちの店長の話を聞かされていました。


「まぁ、私の人生なんて平凡を絵に描いたようなもんだけどね」と言いながらも彼女の人生について話すのを止めません。


「でも子どもはいいわよ〜」彼女は会話の中で何度もその言葉を繰り返しました。


 窓の外でイチョウの黄色が風で揺れていました。


 私は将来結婚をしなくてはならないのだろうか?


 その問いは喉に詰まった異物のように私を息苦しくさせました。


 そしてその人の子どもを産み母とならなければいけないのだろうか?私にできるだろうか?


 たとえようのない不安に包まれました。


 私が他の人と違うところは植物の言葉が分かるだけではありませんでした。


 私は多くの女性が望むことを望みませんでした。


 できれば私は一生結婚せずに1人でいたいと思っていました。


 私を取り巻く絶対的存在は驚くほど大きくなっていました。





 休みの日は1人で登山に出かけました。


 連休を使って泊まりで行くこともありました。


 山に入ると呼吸が楽になりますし、何よりも山の木々や愛らしい野草たちと会話すると癒されました。


 皆、自然に触れると癒されると言います。


 私のように植物の言葉が分からなくても、彼らの発するエネルギーをちゃんと受け取っているのです。

 

 私は他の人よりも少しだけ感覚が敏感なだけなのだと思うこともあります。


 山の植物たちは都会の植物たちと違ってあまり口数が多くはありませんでしたが、いつも私が無事に登山を行えるように助けてくれました。


 急な天候の変化や間違った道に進みそうになると、必ず植物が教えてくれました。


 1度数キロ離れたところに熊がいると白い一輪草の花が教えてくれました。


 どうしてそんな遠くのことが分かるのかと尋ねると、その辺りにいる同じ一輪草から信号が送られて来たと言うのです。

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