第12話

 植物たちは特に同じ種類のものは危険が迫るとそのことを遠くにいる仲間にも電子信号のようなものを使って伝えるそうです。


 信号を受け取った仲間は身を守る準備をします。


 逃げることのできない植物がどうやって敵から身を守るのかと尋ねると、その葉や実を苦くして食べても美味しくないようにするのだそうです。


 すごいですよね。




 

 山で私は1人の男性と出会いました。


 彼は植物生態学の研究者でした。


 一目で私に恋した彼と何度か一緒に山に登りました。


 4つ目か5つ目の山を登ったとき正式に付き合って欲しいと言われました。


 私が彼の申し出を受け入れたのは彼が植物を物のように扱わなかったからです。


 そればかりか彼はせっせと植物たちに話しかけるではありませんか。


 もっとも彼は植物たちが返している言葉は理解していないようで、一方通行の会話でしたが。


 この人だったら大丈夫かも知れないと思いました。


 私は勇気を出して彼に告白しました。


 自分は植物の言葉が分かるのだと。


 彼は目を細めて私の手を優しく握りました。


「識子さんのように心の美しい人には植物の言葉が分かるのでしょうね」


 どこまで彼が本気で私の告白を受け止めたか分かりませんが、私はとてもほっとしたのでしょう。


 ほろりと涙がこぼれました。


 それはちょうどムクノ木の下でのことでした。


「よかったね識子」


 一部始終を見ていたムクノ木が言いました。


「ありがとう」


 私はムクノ木を仰ぎ、手で涙をぬぐいました。


「そんなお礼を言われるほどのことじゃないよ」


 勘違いした彼が照れながらそう言ったので、私は小さく吹き出してしまいました。


「今ムクノ木によかったねって言われたから、ありがとうって返したの」


「なんだ、そうだったんだ、ちょっと紛らわしいなぁ」


 彼は頭を掻きながら笑いました。


 私も一緒に笑いました。


 やっと私も“まとも”になれる。


 そう思いました。



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