第9話
大学を卒業して私は花屋に勤め出しました。
少しでも植物に関わる仕事がしたかったのです。
花屋といっても全国チェーン展開する大手の花屋です。
今思えばよく採用されたと思いますが、そこは私の植物への情熱が伝わったのかも知れません。
ただそこに待っていたものは学生時代とは比べものにならない窮屈な日々でした。
まず始めに社会に出て働く一員として身だしなみを整えなくてはならなくなりました。
会社の行事に参加する時はスーツに身を包み、ときどきしか履かないのでいつまで経っても新しいままのパンプスで靴ズレを作りました。
苦痛で仕方ありませんでした。
社会人になると今までとは違ったルールがたくさんありました。
それらは学生の時のようにシンプルではなく、とても分かりづらいものでした。
また絶対的存在は学生の頃に比べてがらりとその性質を変えました。
学生の頃は比較的単純なものでしたが、社会人になるとそれはもっと複雑でもっとどろどろしているものになりました。
私は社内でも評判の美人だったらしいですが、女性ばかりの店舗に配属になり内心ほっとしました。
相変わらず男性は私にとって脅威でした。
それでも最近は花を買う男性も増え、何度か食事に誘われたこともありました。
いつも仕事が忙しいからとお断りをしました。
1度買ったばかりの花束をそのままプレゼントだと言って渡されたことがありました。
100本の赤いバラのブーケでした。
5万円はしたかと思います。
丁寧にお断りしましたが、その男性は店に来るのを止めませんでした。
いつも仕立てのいいスーツに身を包み、相変わらず私には男性の容姿の良し悪しは分かりませんでしたが、バイトの女の子たちは彼が店にやって来ると色めき立ち、私をひどく羨ましがりました。
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