第8話


 大学に入ると中高にあった校則は無くなりましたが、そこにはまた別の絶対的存在がありました。


 誰もが将来のことを心配していました。


 夢を持とうと躍起になる人や、堅実に将来設計を立てる人、または何も考えていないように振る舞う人。


 皆絶対的存在に怯えているようにも見えました。


 また高校の時からの問題が深刻になってきました。


 それは男性です。


 私に言い寄ってくる男性は大学に入っても跡を絶ちませんでした。


 高校の時までは恋愛に興味がなくてもさほど変ではありませんでしたが、大学に入るともう立派な大人です。


 大人になっても一切異性に興味がないと言うと、何かしら変人扱いされます。




 私は私の生涯において1度も男性を好きになったことがありません。


 だからと言って女性が好きなわけでもありません。


 私は1度も人を好きになったことがないのです。


 どうやったら人を好きになれるのでしょうか?


 どうやったら街中で流れるラブソングのような気持ちになれるのでしょう?


 こんな歌詞がありました。


『こんなに切ないのは初めて。

 好きすぎて苦しいよ。

 あなたに会えない日は息ができない』


 恐ろしい歌詞です。


 息ができないなんて死んでしまいます。


 それに切ないってなんでしょう?


 私は感じたことがないので分かりません。


 この歌詞で見る限り恋とは強力な絶対的存在に支配されているように思えました。



 結局大学の4年間も男性とお付き合いすることはありませんでした。


 入学して1年間は常に私の周りには何人かの男子学生がまとわりついていましたが、次第にその数は減っていき、4年生にもなると誰も私に近寄ってくる男子学生はいなくなりました。


 それは女子たちも同じでした。


 影で私は教授と不倫しているとか、実の父親と近親相姦にあるとか噂されていました。


 いったいそれらの噂はどこから出てくるのでしょうか?


 不思議でなりませんが、私には絶対的存在がその発信元のような気がしてなりませんでした。


 絶対的存在はいつか私を殺しにやってくるのかも知れません。


 絶対的存在は他の人にとっては自分たちを支配する巨大な力なのかも知れませんが、私に限っては私の存在を脅かす脅威であるのかも知れないと、この頃から薄々感じ始めました。


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