第4話

 それから私は植物と話す時はとても慎重になりました。


 それと共にみんなと同じであるように振る舞うようになりました。


 どこそこで買った髪ゴムがクラス内で流行れば仲良しグループの女の子たちと欲しくもないそれを買いに行き、嬉しそうな振りをしました。


 私は子どもなりに周りとの関係を取り繕う術を身につけ、日々をやり過ごしました。




 当時女の子はみんなピアノを習っていました。


 母は私をピアノ教室に通わせました。


「みんなと同じように」


 それが母の口癖でした。


 まるで皆と同じであることが幸せであると、母は信じているようでした。


 それは母の絶対的存在でした。



 

 1度私は父に訊ねたことがありました。


 どうして人は皆と同じにしていなければならないのかと。


 それと絶対的存在のことについても訊きたかったのですが、上手く絶対的存在のことを説明できませんでした。


 父は言いました。


「人は1人では生きられないからだよ」


「ちがったらいっしょに生きられないの?」


「みんなが好き勝手なことをしたら社会が成り立たないだろう」


「しゃかいがなりたたない?」


「例えば信号が赤なのに勝手に横断歩道を渡ったら危ないだろう。みんなで集まって暮らすにはルールが必要なんだよ」


 そういうことではないのです。


 でも私が上手く質問できなかった以上、それ以上は訊けませんでした。


 絶対的存在とは人を支配する巨大な存在なのです。


 肉体だけではなく心まで支配します。


 洗脳と言ってもいいかも知れません。


 絶対的存在の正体は何なのか?


 絶対的存在はある日どのように生まれるのか?


 私は知りたかったのです。

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