11th
─────が私の心配とは裏腹に、懸念要素が懸念要素でなくなってしまった。
私服に着替えてから一階に降りて朝食取ったのも香織からすれば(私は全然そう思わないけど)露出の多い私の寝間着を神崎にというより身内以外に見られるが恥ずかしいから着替えたと思ったらしい。神崎も香織と同じようなことを思ってるようで心の中で安堵した。
正直この引っ掻き傷が神崎にバレたらって思うと怖くて仕方なかった。
神崎は、普段は滅多に怒らないけど怒ると怖い。
前に一度だけ怒った神崎を見たけど恐怖で身が震えて足がすくんだ。
確か─────神崎の前の学校の同級生の女子相手に怒ってたっけ?
なんで怒ってたんだろう?
理由は訊いても教えてくれないんだよな……
誰しも言えないことなんてあるだろうし無理に訊くつもりはない、ないんだけど、本当になんでなんだろ?
「そんなこと今はどうでもいっか」
それよりもこの引っ掻き傷、徹にバレても終わりだ。
徹相手だと神崎レベルじゃすまない。
死んだ方がマシレベルのことをされかねない。
いやその程度で済むならマシな方であろう、死ぬことすら考えられなくなるかもしれないの事をされかねない。
「絶対にバレないようにしなきゃ」
私は自分に誓う。
自分が一番信用できるから。
神様には誓わないよ──────だって神様はいるけど必要最低限のことしかしないしね。昔からそうだった。
神様は必要最低限の干渉しかしない上に個人の事なんて顧みない、大勢の事だけ考えるのだ、集団でしか見ないのだ。
「しゃしゃしゃっ、言うね~」
後ろから声が聞こえ、勢いよく振り返る。
「……………ッ!」
あぁ神様。またあなたは邪魔をするのですか?足掻く私を嘲笑するのですか?
幻聴だと知っていても思わずにはいられない。
「………………神なんてクソッタレだ」
コンコンとノック音。
自室の扉を開ければ─────神崎がいる。
「?なんの用?」
「摂津ちゃん、あのねお母さんもう仕事行ってるから家に帰るね………」
「そう」
「………………………」
神崎はそう言うと黙って俯く。
あぁなるほど───────
「買い物に行くからどうせなら私、送ってくよ」
「うん……ありがとう」
時々思うのだ。何故私は神崎の言いたいことを察せねばならないのだ、と。
おかしい、こんな感情を持つべきではないのに。
こんな悪感情、好きな人に持つべきじゃない。持ってはいけない。
あれ?私──────
「摂津ちゃん?」
「あぁ!ごめんね……まだ寝惚るっぽい」
「眠そうな顔してるもんね」
眠そうな顔?神崎にしては珍しく的外れなこと言うね。
「あぁそうなんだ」
話を合わせといた。否定するのも面倒だしね。
あれ?
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。行こう」
神崎を送りながら、さっきから感じる違和感いついて考える。
──────いやよそう。その先は危ない。
「摂津ちゃんバイバイ、ありがとう」
「うんじゃあね」
神崎を見送ってとぼとぼと歩く。
「コンビニでスイーツでも買おう。甘いもの食べて気分転換しよう」
プルルル
スマホから着信音。
「はいもしもし摂津です」
「叶さん今どこにいますか?」
電話の相手は徹だった。
「あーいつも私がよく行くコンビニの近くだけど」
「今すぐ離れて下さい!人の多いとこ─────」
徹の言葉を最後まで聞くことは出来なかった。
腹部に言い知れぬ激痛が走り、反射的にスマホを落とし腹部を押さえる。
「あっ……うそ………」
腹部に刺さった包丁に、目の前のフードを深く被っており顔の分からぬ人物。
あぁ、私刺されたのか。
腹を刺されても人は案外直ぐには死なない。
だから私は引きずるようにしてその場から逃げ出そうとするが
「がっ!あ゛ぁ゛」
目の前のフードを深く被った人物が馬乗りになり何度も執拗に包丁を逆手に持って、わざと急所を外しながら振り下ろす。
周りに人はいない。
誰も助けに来てはくれない。
「…………はは」
なんなのさ。私に人生って一体なんのなのさ。
なんでこんな風に他人に勝手に命を奪われなくちゃいけないのよ。
段々と意識が薄れるのに反比例して怒りが沸々と沸き上がって来た。
「アヒャヒャヒャ!!ひひゃひゃひゃひゃ!!うへへへひゃひゃ!!けけげへひゃはは!!」
私を殺そうとしている人物の狂った笑い声。不気味だ。
私に腹にはまだ包容が刺さっている。
私は包丁を腹から抜くと、フラフラの体で立ち上がりいまだに笑っている狂人に向かって弾丸のように突進し、奴の腹に深く包丁を刺した。
最期の抵抗──────仕返しをした。
目の前の狂人はさぞかし驚愕しただろう。これで一矢報いることができた。
────あぁもうだめだ。
私の意識はプツンッと途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます