10th

自転車でいつもの通学路を走る。

後は横断歩道を渡って真っ直ぐ道なりに自転車を走らせれば遅刻五分前には教室に到着するだろう。

信号が赤から青に切り替わるのを待っていると─────不意にトラックをこちらに突っ込んでくる。

トラックに私の体が引きずられる。

そのまま電柱に衝突する。

痛みを感じる暇もない。


次の瞬間私は病院の受付窓口付近の椅子に座っていた。

あれ?私さっきまで………横断歩道で事故に…………あれれ?

あまりにも静寂が続く病院内を見渡すと誰もいない。

普段はもっとたくさん人がいるのに…………変だな……………

妙な既視感と不信感を覚えながらも椅子から立ち上がり病院内を散策した。

適当に歩き回っていると視界の端で誰かを捉える。

「と………お………る………?」

徹らしき人影。

追い掛ける、見失わぬように、音を立てぬように、息を潜めて。

「…………………」

いつの間にか病院ではなく裏路地に辿り着く。

けれど────

「徹がいない………見失った?」

後ろから誰かに口を塞がれ、首に包丁が振り下ろされる。

「むぐっ!」

体を必死に揺らし抵抗するが、すぐに力尽きる。


線路の前にいると認識した途端に目が覚める。

「悪趣味な夢だ」

開口一番に、先程の夢に悪口を呟く。

あぁ、クソッ!あの夢一体なんなのよ!気味悪いったらありゃしないよ!

「あぁ!クソッ!なんなのよ!」

なんで私こんなにイライラしてるんだ?

首が気持ち悪い!刺された感触が蘇り気持ち悪い気持ち悪い。

「うっ………あっ…………」

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

「うぅ……」

首を軽く引っ掻く。

汗で体がベタベタして気持ち悪い!

気持ち悪くて首だけじゃなくて腕も引っ掻く、足も引っ掻く。

全身を引っ掻く、気持ち悪くて全身を引っ掻く。

「あっ………!」

足は引っ掻きすぎて血が出ている。

「引っ掻きすぎた……」

なんだこの謎の気持ち悪さ?なんで刺される感触が蘇ったんだ?夢の話なのに。

引っ掻き癖は前々から私自身が患ってるもんだし(昔から混乱したりすると引っ掻く癖がある)、またやちゃったぐらいにしか思わないけど、首の違和感だけはどうにも無視できないな。


隠さないとな……。

足首には自分の部屋に置いてある救急箱から取り出した包帯を巻く。

ノースリーブのワンピースという引っ掻き傷が目立つ服装からいつも長袖のジャージで腕の引っ掻き傷を、ショートパンツで太股の引っ掻き傷を、靴下で脹ら脛の引っ掻き傷を隠すような服装に着替える。

「普段の私服と同じだし、今日は土曜日だから私服でも誰も変に思わないでしょ」


───────普段はパジャマのまま朝食を取るのに、今日に限って私服を着替えてから朝食の用意をするのを香織が不思議に思うにと、神崎に何かを悟られないかってのが唯一の懸念要素だな。

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