8th
全員が晩飯を食べ終える。
私のデザインが男でも女でもどっちが着ていても不自然じゃなくて、神崎は男にしては華奢だが私より背は高いのでサイズも少し大きめのジャージを渡し、今風呂に入って貰っている。
香織は浴室のある方向をチラチラ見てから
「神崎さんは腕に怪我しているんですか?包帯してましたけど」
と、訊いてきた。
「うんちょっとね」
手首から肘までしている包帯の下にはリストカットの跡があるなんて言えない。
「なら換えの包帯が必要じゃないんですの?」
傷跡が見られなければそれでいいって前に神崎が言ってから長袖のジャージだけ渡したけど包帯も渡した方が良かったな。
「お風呂から上がったら包帯渡すよ」
「そうですか」
「細かいことに気づいて偉い」
えへんと自慢げな香織。
プルルル、プルルルルル
家の電話が鳴る。
「はいもしもし摂津ですけど」
「もしもし叶ちゃん、私だけど」
電話の相手は香織のお母さんだった。
「おばさん?どうしたの?」
「実は会社でトラブルがあって帰れそうにないの。香織にも寂しい思いをさせているし、あの人が借金作らなければこうはならなかったんでしょうけど………」
おばさんの声は少し疲れている。
「ああごめんなさい。叶ちゃんにあの人の愚痴を言っても困っちゃうわよね。ごめんなさいね。話を戻すけど香織のこと今日は頼めないかしら?」
おばさんが言うあの人とは香織のお父さんである。
「大丈夫ですよ。叔父さんには私の方から連絡しますので」
「ありがとね叶ちゃん。香織のことよろしくね」
ツー、ツーとトーン音。
「香織~今日はおばさん仕事で帰ってこれないって」
「そうですの。神崎さんがお風呂上がったらお風呂入って今日は寝ますわ」
「了解」
「ふうう、サッパリした~」
神崎がジャージ姿で現れる。
気配を感じなかった。忍者かお前は。
「お風呂入ってきまーす」
パジャマを持って浴室の方にドタバタ走る香織が見えなくなると神崎に包帯を渡す。
「摂津ちゃんありがとう」
ジャージの袖を捲り包帯を巻く。
「………………………………………」
痛々しい傷跡。
「摂津ちゃん」
包帯を巻き終えると声を掛けられる。
「?」
「香織ちゃんのお姉ちゃんに当たる人で摂津ちゃんの親友って子どうしたの?」
「…………行方不明なの」
間髪入れずに
「本当に?」
うっ!
「本当に行方不明なの?」
「そうだよ」
「摂津ちゃんは知ってるんじゃないの?本当は香織ちゃんのお姉ちゃんの行方知ってるんじゃないの?」
「!!!?」
「摂津ちゃん。嘘言っちゃやだよ?僕は叶ちゃんは素直な子だと思ってのにな~」
静かに淡々と責める感じ。
「あっ……ひぇ………ひゅ………ふぇ……はぁ……う…………」
息が苦しくなる。動機が激しくなる。全身が震える。
「くっひゅ……り………」
寝るとき以外身に付けているウエストポーチから震える手で薬を取り出す。
「せ、摂津ちゃん………?」
「はぁ…はっはぁ……はぁはぁ……うっあぁ…………」
口に薬を放り込みウエストポーチから取り出したペットボトルの水を薬と一緒に喉に流しこむ。
体を地面に委ね深呼吸を繰り返せば発作は治まる。
「摂津ちゃん大丈夫?」
「うん…………でもその話もうしないでね」
「ごめん…………」
別にいいよ悪意はないし。
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