4th
次の時間、移動教室なのでその準備をしていると周りに聞こえないように小声で徹が話しかけてくる。
「叶さん」
「えっと、何?」
徹に合わせて小声で話すが声が震えている。
この声の震えは徹に対する恐怖心から来るもの。
「一つだけ約束してもらえませんか?」
「約束?」
「神崎勇気に気を付けてください」
「よく分かんないんだけど………」
意味が分からず訊ねる。
そもそもいきなりそんなこと言い出して何が言いたいんだ?
「言葉通りですよ」
いつも通りの温厚そうな笑顔で言う。
分かるように言ってくれなきゃ分かんないよ。
「教えないのは意地悪してるからじゃないんですよ」
私は疑いの視線を徹に向ける。
「教えられないんですよ神崎勇気のせいで」
ほぼ答えじゃんという台詞は口には出さない。
「彼は私以上に危険ですよ」
まるで徹も危険って言ってるみたい─────いや、みたいじゃなくて徹は自分のことを危険だと思っているのか。
「分かったけど、具体的にどう気を付ければいいのさ」
「可能な限り下手に関わらない方がいいですね」
そりゃそうだけど
「あとは彼に優しくするべきじゃないですよ」
────優しさは慣れない人間には勘違いさせますから
と、徹は神崎に同情の視線を送る。
「……………寂しい人」
徹は呟く。
その呟きは徹自身と神崎に向けた呟きなんだろうなと思った。
けど意味は分からなかった。
「そろそろ行かないと休み時間終わるじゃん」
話していたら時間が経ってしまったようだ。
「よかったら叶さん一緒に行きませんか?」
「行こう」
急いで廊下を走らずに目的地へ歩む。
徹に対する不信感や警戒心については徹に訊く勇気はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます