6th

江実えみとおる、と登録された電話番号にかける。

「今は十七時十分だから約八割の確率で出るはず」

僅か三コールで出た。

「もしもし叶さんですよね?」

「むしろ私じゃなかったら怖いだろ」

「その返事の仕方は百パーセント叶さんですね。風邪はもう大丈夫なんですか?」

「徹ちょっとだけオカシナ話するけど真面目に聞いてね」

「えぇどうぞ。叶さんの話ならいくらでも聞きます。叶さんと電話するためにかけ放題のプラン入りましたから」

「えっコワッ」

「冗談ではなくガチですが………そんなことより話があるのでは?」

「ああうん実は──────」

事情を軽く説明すると

「確かにオカシナ話ですけど叶さんが冗談でこんな話を作れる人ではありませんし、話を作る能力もありませんから信じますよ」

「一言余計!────でも信じてくれてありがとう」

「私は叶さんの友達ですから信じますよ」

「よい友を持ったもんだよ」

「でも実際叶さんの言う二つ仮説、案外両方とも正しいのかもしれませんよ?」

意味が分からず首を傾げる。

もちろん電話越しの徹には見えない───しかし徹には私は意味を理解できずにいることが伝わったようで自信なさげに説明してくれた。

「つまりパラレルワールド的なものがあって事故でなくなる叶さんの記憶を今ここにいる叶さんが夢という形で見た、というものなんですが……」

「あぁなるほどそういう考えもありだな」

「実際は違うかもしれませんけどね」

「ううん、意見はあるに越したことはないから」

「えぇけど事故で死ぬ叶さんが実際存在したとしてこちらの叶さんが近いうちに死なないとは限りませんよね」

「そのことなんだけど、私多分死ぬんじゃないの?事故だって自分で回避したっていうより偶然風邪を引いて偶然避けられたってだけだし……そうでなきゃあんな性質たちの悪い夢見ないよ。あの夢は事故で死ぬことじゃなくて近いうちに私が死ぬって暗示なんじゃないかと思うんだよ」

「………叶さんが死んだ世界は味気なくてつまらなくて退屈ですね」

「まだ決まったわけじゃないから」

「そうですね」

「そろそろ切るね、まだ微熱だけど熱っぽいし」

「お大事に」


ツーツー、と電話が切れる音。

「話したら気が抜けて眠くなちゃった。軽く寝るか」

ベットに沈み睡魔に身を委ねた。

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