守護者
「――さてさて、どうしたものかしら?」
レンカを警戒してか、兵隊の面々は直ぐに総攻撃をしようとはしなかった。武装は奇襲を仕掛けてきた者達と同等の装備。あの戦闘をモニターでもしていたのか、無暗に発砲してこない。銃弾を媒体に爆発が拡散されるのだとわかっているようだ。
障害物に身を隠し、じわじわと距離を詰めてくる。
「こんだけの兵力で十分と? いったい、長年ここを護ってきたのは誰だと思ってるのかしらね!」
ちらり、とモニターに目を向けた。端末に表示された転送にかかる時間は90秒。悠と稍夜の身体が無事に送られるまでは、なんとしても装置に近づけさせるわけにはいかない。
それだけの間を護り通せば、後は自爆でもいいからここを破壊するだけだ。
部隊の数名が銃器を収め、持っていた超振動ナイフを抜いてレンカに向かってくる。不用心な攻撃はしてこないだろう、一定の間を開けて五人いっぺんに迫って来た。
「上等!」
レンカはその五人に狂喜の笑顔を向けながら、右手を脇腹の傷に深く差し込んだ。一斉に体内の血が溢れだし噛み締めた彼女の口からも血が零れる。
「グゥゥッ!……こんな痛み!」
血に濡れた手が橙色に変色していく。血と肉を盛った手から放たれるは橙い閃光。レンカは血肉を扇状に、空中へと撒き散らした。
「私の覚悟を! 甘くみんな!」
血しぶきは彼女の手を離れると、全てを爆破する雨となって五体の身体をバラバラに粉砕した。正に爆弾の嵐、レンカの血肉の塊は今までにない爆発の散弾となって兵士たちに襲いかかる。骨すら残らない圧倒的火力の前に、残りの者達も爆風で吹き飛ばされていった。
「――――が―はッ!」
今までで一番大きな吐血が彼女を襲った。正に諸刃の剣である。これほどまでに大きな爆発を放てる一方、レンカはとうとう血の海の中に膝を付いてしまった。内臓がこぼれ落ちるのではないかと錯覚してしまう気持ち悪さに、必死で耐える。
――もう少し
あとどれだけの時間が残されているかはわからないが、一秒が彼女にはとてつもなく長く感じた。
――少しでも、一秒でも長く時間を稼ぐ。
生き残っている者たちは、レンカの爆撃を前にしても一切躊躇わなかった。相手が『発現者』であっても、彼女は今にもこと切れそうな重傷者だ。一発の銃弾でもレンカは死ぬだろう。
今のような荒技どころか、力さえ使い果たした彼女には銃弾を防ぐ術がない。意識が遠のくのを感じながら、どうしよもない自分の身体をなんとか立たせようとして、血に足を取られる。
どんなに抗おうとも、どんなに声をだそうとしても、思いは届きそうにない。
数多もの銃口から、5.56㎜弾が一斉に火を噴いた。数の暴力は彼女を蹂躙するだろう。
しかし、
「テメェはやっぱり、いつまで経っても大馬鹿なままだな」
銃弾は彼女の身体を襲うことなく、寸前で割って入った良く知る背中によって遮られていた。
目と目が合う。
もう無いはずの目は、でもしっかりとレンカを見下ろしているような気がした。
「……ったく、遅いのよばーかぁ」
レンカの顔が歪む。笑顔と泣き顔が混じっている酷いものだ。誰にも見られないことをいいことに、初めて涙というものを流したレンカ。しかし彼女の笑顔は輝いている。
最後の最後で、彼女の願いは届いた。
服は破け、全身傷だらけのパートナー。何百もの銃弾を浴びた彼はそれでも平気な顔をして死にそうなレンカを抱き起こした。
レンカによって潰された両の目。彼女を気遣って今まで隠していた目の傷はもう隠してはいない。避けてきた二人の心の隙間が埋まる。
その間も、銃弾の嵐が二人襲った。だがしかし、鉄壁の守護者をこれしきの火力で倒そうなどとは笑止千万。
大切な人を護る為に得た力は、今こそ使うべきもの。
「テメェら。俺の女に銃を向けたことに後悔しろ」
箱庭の方針に忠実にならざるを得なかった猟犬。
彼は本当に護るべき大切な者の為、肉を抉る牙でこの世界に叛逆をした。
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