キョウヘイとレンカ

 あるところに、類い稀なる戦闘の才能を生まれ持った強い女の子と、何をしてもダメで弱い男の子がいました。

 女の子は将来のエリートコースも早々に決まり、男の子は努力が結果に結び付かないような落ちこぼれでした。

 そんな二人はパートナーでした。しかしお互いに相手を認めあってこそのパートナー、頂点と底辺の凸凹コンビは最初、衝突が絶えませんでした。

 ですが、二人は努力をしました。

 圧倒的個人技を持っていた女の子でも、チーム戦となれば黒星をつけられてしまいます。おまけに唯一の弱点が機械という一面も持ち合わせていました。

 負けず嫌いな女の子は、その高飛車な性格を見つめなおし、周囲を、パートナーである男の子を理解しようとしました。

 男の子は自分の不甲斐無さが足を引っ張っていることを恥じ、女の子に少しでもつり合えるよう誰よりも鍛練を積みました。機械にも強く、諦めない根性を持って女の子をサポートしたのです。

 結果。誰もが認めるような二人に成長していきました。お互いがお互いの欠点を補う、理想的なパートナー。

 そんなある日のことでした。

 二人の参加していた訓練、班の内の一人であり彼女の親友とも呼べる女の子が別の班により殺されてしまったのです。

 不慮の事故なのは明白でした。

 けれど、女の子の中で何かが壊れたのは言うまでもありません。

 女の子が我に返った時には、自分の周りは火の海でした。灼熱の炎は女の子のものでした。

 そう。女の子は、『発現』したのです。

 炎の波の向こう、見えてしまったいくつも転がる黒い塊が何であったかを悟ると、感情の抑えは効かなくなりました。

 力の発現になれていない不安定な精神はあっという間に崩壊し、暴虐の力となって解き放たれます。

 目に入るもの全てを破壊する衝動。発現した者に現れるという二面性の人格。暴力的な感情の元に現れたもう一つの人格が爆発しました。

 何もかもが憎かった。何もかもを壊したかった。

 仲間の死など何度も経験したはずなのに、僅かな精神の隙間に悪魔が囁くのです。

 

コロセ、コワセ、コロセ――

 

女の子の目には全てが黒く見えていました。

 紅蓮の業火を噴水の如く撒き散らす女の子。炎の唸る音しか聞こえなかった耳に、突然よく知る一つの声が届きます。

 その声は弱々しいながらも必死に女の子へ呼びかけていました。

 ですが狂喜に狂った女の子は声のした方向へと爆発を纏った瓦礫を放ろうとします。もうよく知る声さえも憎かったのです。

 けれど女の子は動きを止めました。

 炎の壁を突き破って向ってくる黒い何か。それが顔を真っ赤な血に染め、全身に火傷を負ったパートナーの男の子だと認識した途端、女の子の動きは止まりました。

 男の子は力強い足で一歩一歩と女の子との距離を詰めていきます。

 不用意に近づいてくる男の子に、女の子は手元にある尖った瓦礫の爆弾を投げてしまいました。

 目を失った男の子に避ける術はありません。

 瓦礫は男の子の身体を貫き爆発してしまいました。 

 ――大切だった人をまた失った。

 女の子に残っていた理性の欠片はこれで完全に吹き飛び、火の海の中で血反吐を吐きながら高笑いをします。

 もう、これで本当に何もかも残っていない。

 しかし、不意に女の子の身体が誰かに抱きしめられました。 高温に上昇した女の子の腕に苦悶の声を漏らしながらも、女の子の身体を離そうとはしません。

『テメェは大馬鹿だな……』

 誰よりも弱かったけど、とても強かったその言葉。胸に宿した悪魔が、深淵に沈んでいきます。

『こんなことして、お前は幸せなのか? お前が笑って、泣いて、怒る場所を消し炭にして何が残る。お前の燃えカスなんか、俺は拾いたくない。俺如きでいいなら、もうお前が何かを無くさなくても済む様にしてやる。お前の、その全てを俺が、護ってやる』

 彼の言葉が、女の子を救ったのは言うまでもありません。

 ―キョウヘイ―

 女の子は、静かに彼の名を告げる。

 

 後に、女の子と男の子は最強の矛と盾を持つ番人となりました。

 ――とさ。 

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