二人の力
”バゴオオオッォン!”
二人が稍夜に寄り添っている時だった、少し離れた場所の天井の一部が突然崩落した。大小多くの瓦礫が降り注ぎ、コンピューターやデスクを下敷きにしていく。
「あらあら、随分と早いご到着ね」
レンカは両手の肘まである黒長手袋を脱ぎ、床に突き刺してある鎖鎌を手にして立ち上がった。発火する両腕で鎖の短い鎌を構え、天井を睨みつける。彼女の敵意は新たにやってきた脅威へと向いていた。
「……なんで俺たちを助けてくれる」
稍夜を抱いたまま、悠はレンカを見上げた。
「その子に、私は負けた。敗北した役立たずの『発現者』が辿る末路は『処分』されるのが常よ。『ラグナロク』となって心を持たない兵器になり果てるくらいなら私の好きにやらせてもらおうってだけ」
二人は視線を合わせること無く言葉を交わす。
明るく振舞おうとしているが、彼女の笑顔が一瞬曇った。
「この世界が偽りの世界だと知ってから、私は何度も何度も子どもたちが犠牲になっていくのを見てきた。死に顔を見れるだけまだマシ。だから……そうね、私はこの狂った世界を終わらせたいのね。もう言い成りになる必要もないことだし」
次の瞬間にはレンカは微笑んでいた。稍夜と殺し合った時に見せた狂喜の笑みではなく、綺麗な笑顔。付き物が落ちたような清廉さだった。
レンカは二人と装置を庇うようにして立つ。瓦礫は崩れ続け、天井に空いた穴から何かが地面に降りてきたのが見えた。人影が全部で五つ。
「だからここはお姉さんに任せなさい」
相手の姿を確認するや否やレンカは動いた。
彼女は傷から溢れる血も厭わず、鎖鎌を煙の中に向けて放った。燃える右手がさらに橙色に輝き、血に濡れた鎖に炎を送る。すると、煙の中から炎の渦が巻き起こった。渦の中では幾つもの爆発が舞っているのがわかる。
「すごい……」
思わず見とれてしまう悠。これほどの火力を持つ相手に、腕の中の少女はどうやって勝ったのだろうと、悠は苦しむ稍夜を見下ろした。
レンカの放った爆発渦の中から、短い悲鳴が聞こえる。だが立っている影はまだ三つ残っていた。内二人がいち早く煙から飛び出した。敵はキョウヘイと同じ防護スーツを全身に纏い、顔面全体をガスマスクのような物で隠している。
二人は持っていたナイフでレンカの鎖を容易く切断。稍夜の一撃にも耐え、レンカの熱でも変形することの無かった特別製の鎖が一瞬だった。
「超振動ナイフ! これは本気でつぶしに来たわね」
超音波の振動により切れ味をあげる技術は実用化されているが、これはその域を超えていた。ナイフは微弱な振動をおこしており、触れるものを容赦なく切り裂くだろう。
「王子クン! お姫様をしっかり護りなさいよ!」
「言われるまでもない! ここまできてまた失うか!」
悠は稍夜の傍に控えた。左手にある銃のグリップを強く握る。
そんな二人を狙って、爆炎を抜け出てきた残りの斥候がアサルトライフルを撃ちながら悠の方へと走ってくる。
「クッ! 邪魔すンじゃネぇよ!」
向かってくる敵に、悠は咄嗟に駈け出していた。持っていた銃を連続して撃つ。狙いは正確、しかし、かなりの防弾性能なのか着弾しても相手は仰け反りはするものの致命傷には至っていない。
相手の装備を悟ると、悠はそのままの勢いで接敵。当然反撃をしてくる斥候は、持っていたナイフを振るった。刃先が悠の髪の毛を塵に変えながらもギリギリでナイフを躱し、顔面を拳銃で殴りつけた。その一撃はマスクを大破させ意識も刈り取る。
一方のレンカは、銃弾を長手袋の外した左手で受け止めていた。相手はアサルトライフルのフルオートだが、彼女には関係ない。レンカは熱流を緩衝剤に使ってうけとめているのだ。そして纏う熱を銃弾に送り込んでいく。するとたちまち、抉るような弾丸は誘爆。勢いはコンマの秒で発砲した者にまで到達し、肉体を灰すら残らないほど一瞬で蒸発させてしまった。
一瞬で敵を無力化したレンカと悠。一瞬の静寂が訪れる。あるのは装置の起動する音と、三人の荒い息遣いだけだった。
「やるじゃない、君」
レンカは辛そうな顔で親指を立て、悠へ向かって称賛を贈った。
「――……アンタこそ。そんな傷で無茶させて悪い。助かったよ」
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