阻害
金属の軋む凄まじい轟音と揺れを感じ、織笠悠は目を覚ました。
どれくらい意識を失っていたのだろうか。痛む全身に鞭を打ち、生きている左手で起き上がる。痛覚よりも気持ちばかりが先行して彼の身体を動かした。
「く……、意識失って」
どれくらい倒れていたのか。
悠とキョウヘイの戦いが起こした余波を受けたクローン製造プラントが炎上し始めていた。遠くの方では、大男がまだ意識を失って倒れている。
「……はやく、稍夜の所に行かないと……」
少しの時間さえ惜しい状況。別の所で戦っているはずの彼女のことが気掛かりだった。床に落ちていた拳銃を拾い上げ、激痛に耐えてぎこちなく走り始める。
数分、壊れたプラント内を走ると見覚えのある大穴を見つけた。最初にくぐった、倉庫と『ゲート』のある大部屋に続く穴だ。
悠はボロボロになりながらも、ようやくあの装置が置かれた広い空間に到着。部屋を充満していた粉塵も収まり、前と変わらずに装置はそこにあった。
しかし、門の制御装置の前には既に先客が待っていた。
「あらあら、まさかキョウちゃんに勝っちゃったの?」
悠は初対面だが、彼女が敵だということは瞬時に解った。
「あんたは……」
待っていたのは、キョウヘイの相棒であり『門番』のレンカだった。ドレスの腹部を血で黒く染めており、体を起こしているのも辛いのか装置に身体を預けていた。
レンカは焼いて塞いだ傷を手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……!! 稍夜!」
彼女の後ろ、床に横たわる少女を見つけ悠は警戒を強めた。残った左手で後ろ腰に差していた拳銃を抜き構える。
「まーまー、落ち着きなさい」
敵意剥き出しだった悠の目の前に、レンカはインカムの様なものを投げつけた。無線の受信機だろうか。小型で床に落ちているにも関わらず、クリアで機械的な音声がスピーカーから聞こえてくる。
『繰り返す――『門番』は敗走。速やかに侵入者を抹殺せよ。繰り返す―』
それはまさしく増援の知らせだった。
最悪な状況。レンカは深手を負っているが『発現者』。ただでさえ相手をするには骨が折れる怪物だ。そんな彼女に加えて増援が来ればなすすべなどない。
「上層のお偉い方もずいぶんと躍起になってるみたいね。これは急いだほうがいいわ。よいっしょっと」
動いたレンカに身構える悠に対して、彼女は予想外の行動にでた。『ゲート』の制御装置と向き合い、悠に無防備な背中を見せて端末を操作し始めたのだ。
隙だらけなレンカからは、まったくと言っていいほど敵意を感じなかった。
「私はもうあなた達と殺し合う気はないわ。いったい誰が眠り姫を運んであげたと思って?」
レンカは悠に一瞥もくれないまま操作を続けている。何をしているのか、という考えすら馬鹿らしくなるほどだ。
「……どういうつもりだ?」
「いいから。時間がないのわかってる? 君たちは帰えるんじゃないの?」
意識は端末に向けたまま、レンカは覚束ない手を止めようとしない。
悠が構えた銃口を下ろし、横たわる稍夜の元に駆け寄った。右腕の火傷は酷いが、それ以外に目立った外傷はない。
「稍夜、大丈夫か? って、アッツ!」
稍夜の身体をそっと抱きかかえた悠は彼女の体温に驚いた。人肌の温かさではない。かなりの高熱が彼女を蝕んでいるのがわかる。
装置の操作にかかりっきりだったレンカは手を止めると、そっと彼女の前髪を退けて表情を視診していく。
「『発現力』を使い果たして体力が落ちたのが原因ね。自身の許容量を超えて力を使ったから身体が強制的にシャットダウンしたんだわ。私も経験あるから」
「こんな高熱、大丈夫なのか?」
「体力を極限まで使い切ったようなものだから、大丈夫とは言えないわね。それにこの発熱はちょっと危険。恐らく、右腕の火傷による細菌感染も併発してるわ、急いだほうがいい」
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