対峙(ⅹ)
――目の前で消えた学友を助けられなかった。
――目の前で暴走する大切な人を止められなかった。
何も出来なかった昔の自分。役に立たないと思っていた自分の生きる価値をようやく見出してくれたこの絶対的な力。それこそがキョウヘイの『発現力』であり生きる証。
「――だから! 俺が! 壊せないものなんて!」
敵を、己の強固な身体で射抜き、鉄壁の防御の前に守れぬものなど皆無。戦闘においては敗戦の文字は無かった。
だが、どれだけ押し込もうにも剣はそれ以上異質な少年を傷付けられない。
悠は持っていた拳銃を手放すと、左腕をゆっくりとキョウヘイの目線まであげた。その手は力無く握られている。
キョウヘイは動かない。悠の前で石化したかのように、剣を両手で握りしめたまま固まっている。
拳を、悠はキョウヘイの眉間に押し当てた。
「あんタ、目が……」
感情の浮き沈みが無い悠の声。
悠が拳を向ける先に、ターバンは無い。鉄の塊の中で破れたのか、彼の素顔が現れている。
均整の取れていたであろう顔を台無しにしている大きな傷。目から両頬にかけて大きな傷跡がキョウヘイの顔には残っていた。皮膚と肉は抉れ、目は完全に潰れている。
「……ガキの頃に、大馬鹿女のせいで吹き飛んだんだよ」
それであの動きと強さだったのだ。目が見えないというハンディキャップを実力にあてはめるならば、彼は相当な実力者なのだろう。
『発現者』としての秘めた才能。強さが全てのこの世界でキョウヘイに生きる術はこれしかなかった。だから藻掻きながらも生きて、血に塗れてきた。
「アンタも、苦労シてきタんダな。だガ、これで終ワリだ」
「……っは、まだ解ってねぇのか? 俺は頭をライフルで撃ち抜かれようが死なねぇんだぞ」
これほど暴れてもまだ生産プラントの機能は死んでいなかったのか、異常を知らせる警報が赤いパトランプと一緒に鳴り始めている。
「――言っとくガ……アんたを殺セないのは解っテイるよ」キョウヘイに護るものがあるように、「あンたの力。死ななイんじャなくて、死ねなイんだろ?」悠にだって護らなくてはならないものがあるのだ。
悠は左肘を大きく引くと、キョウヘイの額を全力込めたストレートで殴った。
だが相手は眉間を撃たれても平気な男。なのに、今回ばかりは少し違った。衝撃を受け止めるまでは同じだ。だが、何かが大きく違っている。そのインパクトは、キョウヘイの殴りを遥かに凌駕する衝撃を与えたのだ。首ごと、頭を仰け反らせたキョウヘイは、巨体を有り得ないほどの速度で縦に回転させて吹き飛んでいった。
培養槽の立ち並ぶ台座を次々に蹴散らしていく。そして、広いこのプラントの終着点。悠の立つ場所から遥か先の壁まで転がり辿り着いた時には、キョウヘイは壁へ背を預けたまま気を失っていた。
外傷は負わずとも、衝撃全てを吸収しきれなかったのである。キョウヘイの脳は激しく揺さぶられ、脳震盪を起こした身体がすぐに起き上がることはなかった。
終わりを見届けると、悠は静かに拳を降ろした。
全ての力を使い果たし、立っていることもままならない。
「……右手、イッた……か」
そのまま悠は力なく爆心地のような床に崩れた。
「ッハ――殺しはシたくねぇンだとさ……このアマちゃんが」
眠りが、優しく彼を迎え入れる。
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