対峙(ⅱ)
突然の爆発。
『ゲート』の状態を確認しに動いた直後のことだった。
悠の無事を確認した稍夜は、爆発が装置に影響していないことを横目で確認する。
「さすがに、『ゲート』を破壊するようなことはしてこない、か」
今の爆発で装置が吹っ飛んでしまっては泣くに泣けない。破壊してくれるというのならば有り難いことなのだがそれは今ではない。
少しだけ複雑な心境で、稍夜は気持ちを切り替える。
部屋に入ってきた気配は二つ。状況的に、先に会合した『門番』の二人とみてまず間違いない。
強引な方法を取ったものね、と稍夜は心の中で呆れた。
排水が終わる前に追いつかれたことといい、恐らく壁を破壊してきたのだろう。稍夜は己の見通しが甘かったことを後悔する。
「赤い閃光。爆発物じゃない……あの女の人が持ってる『発現力』」
ナイフを握り直し、稍夜は戦闘態勢に入った。周囲に張り巡らされた警戒網は直ぐに標的を捉える。
「みーっけ!」
声は頭上、巻きあがる煙がまだ届ききっていない天井付近を舞う赤いドレス。レンカと呼ばれていた『発現者』を視認した。
彼女は左腕にだけ黒い長手袋をつけ、右手はどういうわけか熱された鋼のように橙色に燃え上がっている。
「やっぱり、今の爆発はあなたの『発現力』でしたか」
赤い綺麗なドレスは節々が少し燃え、灰になっていた。だが彼女は自分のそんな姿など気にした様子は無く、ただ目の前にある稍夜という得物しか見えていない。
「そうよ! 我慢できなかったから少し無茶しちゃったけどネ♪」
レンカは天井を蹴ると、燃える右手を突き出し稍夜に掴みかかるかのようにして飛びかかってきた。
一方の稍夜は、彼女の獣じみた動きと突進力に驚きはしたものの冷静だった。レンカの直線的なスピードは脅威ではあるが、稍夜からしてみれば彼女はまっすぐ落ちてくるだけの火の粉に過ぎない。
稍夜は真上から迫る彼女の右手を楽々避け、避け際に何閃かナイフを振るった。
「おっとっと! そう簡単にいかないわよね! はは! 燃えてきたにゃー!」
稍夜がナイフで切り付けた回数は三回。どれもが静脈、頸動脈、脇下など。急所を狙ったものだった。しかし、稍夜のナイフは虚しく空を斬った。易々斬らせてもらえるとは思っていなかったが、稍夜は直ぐにレンカの着地した方へナイフの切っ先を向けて対峙する。
四肢を床に付けて獣じみた着地を見せたレンカ。床に触れた右手は爆発を起こし、コンクリートが吹き飛んだ。
彼女はそのまま長手袋をした左手で、ドレスの裾に入ったスリットから鎖を取り出した。鎖の先には鎌が付いている。
「鎖鎌だなんて前衛的なものを……『門番』が守るべき『ゲート』を破壊するなんてことは考えにくいけど、あんなのをこの視界不良の中で振り回されたら悠くんも巻き込みかねない」
レンカの背負う『ゲート』を見て、稍夜はすぐさま踵を返して走りだした。
少し離れたところには悠の気配。そして先ほど一戦交えたターバン男、キョウヘイの気配があった。悠の方に加勢したい気持ちでいっぱいの稍夜だったが、後からはレンカが鎖鎌を振りまわしながら迫って来ている。
「待ちなさーい!」
乱戦になってしまっては明らかに分が悪い。先ほどは一騎打ちだったが、キョウヘイとレンカ、『発現者』二人を同時に相手取るなど今の稍夜には無理な話。
危険ではあるが、早急にレンカを撃破して悠の加勢にいくのが最善と結論付けた。
「悠くん、どうか無事でいて」
悠の身を案じながら、レンカの開けた穴から稍夜は飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます