ゲート

 ダクトの中は明かりがほとんど無く、一定間隔で足元を照らす弱々しい非常灯があるだけ。慎重に歩を進めなくてはならず、移動速度は必然的に落ちていった。

「悠くん、足元気を付けてね」

「そっちこそ。まだ時間はあるんだから無理せずゆっくりでいいからな」

 そうして、どれくらい進んだのか。稍夜の後に続き、果て無き命がけの道を進んでいく。目が慣れてきたとは言え、まともに道らしきものを確認できない闇の中での行軍だ。

 しかし、稍夜に迷いは無かった。まるでこの暗闇でも視力が生きているかのよう。それともあの短時間で初めて見た『ゲート』までの順路を完璧に記憶したのだろうか。

 何度か梯子や下り道を経て、稍夜が初めて足を止めた。後ろにピッタリとくっ付いている悠の袖を振り返らずに引っ張ると、床を指さす。

「着いたと思う。この下が最深部」

 立ち止まった所は、やけに配線や電線が集中している少し開けた場所だった。低かった天井も、伸びができるほど余裕があるほどだ。

「あれから一時間くらいか……」

 腕時計で時間を確認する。緊張で凝り固まった肩の力を抜いていく。

 稍夜が床のハッチを引き上げた。人一人がようやく通れるくらいの穴から、二人は頭だけを突き出して下の様子を窺う。

 幸い見る限りは誰の姿も無い。あるのは巨大な門のような装置と、それを囲うようにして配置されている大型機械やコンピューターだけ。

「よし……まだ誰も、いないな」

 体調が回復してきているとは言え、満身創痍の女の子を先に行かせることはどうにも気が退けた。警戒を怠らず悠は静かに飛び降りる。

 降りてからよく周囲を見てみると、部屋の大きさが尋常じゃなかった。彼が飛び降りたハッチはまだ幾らか低いところにあるのだが、その更に上にはまだ天井が続いていた。何よりも、部屋の中央に鎮座している大きな装置が異様な空気を醸し出している。

 周囲の安全を確認すると、手招きで稍夜にサインを送った。稍夜も危なっかしく穴から飛び降りて、中を見回している。

「またここに来ることになるなんて……」

 無意識に声を出していたのだろう。稍夜の声はいつもより小さかった。

 二人の目の前には、静かな駆動音を響かせている装置がある。これが目的の『ゲート』であるのは、なんとなく悠でもわかった。

「ちょっと見てくるね」

 稍夜は太もものナイフを抜き、周囲を警戒しながら装置へと小走りに向かっていった。

 もう少しでこの地獄のような一日から解放される。自然と緊張感が高まる悠。

「迷うなよ……少しでも迷ってたら殺されるんだ、織笠悠。ここは、俺のいた平凡な世界とは違う」

 自分に言い聞かせる。

 一歩踏み込めば、その先の世界はまったく知らない世界。殺すか、殺されるか。どちらかしかない。

『ラグナロク』に襲われたときにそれは実感している。追ってくる相手は特別な力を持つ『発現者』と言われる怪物達なのだから。

 どうかこのまま、何事もなく終わってくれ。悠は心の底でそう願った。


 ――が、現実はそう甘くは無い。


 最初に見たのは赤い閃光。直後に爆音と共に部屋の壁が爆散した。コンクリートと鉄骨の雨が横から二人を襲う。

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