program.2 終焉を齎す者

幕間(ⅰ)

 つんざくような警報が鳴り続ける。点々と設置されている赤い回転灯が照明の落ちた通路を赤く染めていた。無機質な通路は鉄筋が剥き出しでどこか不完全さが目立つ。そんな巨大な通路に複数の足音がやってきた。一つは軽く、残りの多数は地面を揺らすほど大きい。

 赤い光に照らされ、全身黒衣の少女が先頭で駆け抜けていった。肌をさらけ出しているノースリーブの腕を大きく振り、長い黒髪は走りに合わせて左右に靡く。髪の毛の下、背中から延び腰のポーチへと繋がる数本のコードも一緒に揺れていた。

 少女の息は上がっており、ショートパンツから伸びる太腿や脇腹には生々しい傷痕があった。

 額を汗が伝う。彼女は内心の焦りから奥歯を強く噛んだ。邪魔な前髪を時折払いながら、それでも尚走り続ける。

 数秒前にも見たが、もう一度だけ後ろを振り返った。

 少女から後方20メートル。執拗に後を追ってくる一様に同じアーマーを身にまとっていた者たちがいた。鎧のような全身を包む漆黒の姿は不気味で、顔に浮かぶ紅く光る一つ目が少女の背中だけを射抜いている。

 追手は一糸乱れぬ隊列を組み、鉄板の床を踏み鳴らして追ってきていた。手には大口径のライフル。重装のわりに、身軽な少女をピッタリとマークしてくる。少女の疾走に着かず離れずの距離を保ち適度な間隔を保っていた。

「はぁ……はぁ……」

 追ってくる追跡者は広くない通路を横一杯に広がり、まるで津波のような勢いで少女を飲み込もうとしている。今はまだ距離が離れているが、いつその手に持った大型ライフルが牙を向いてくるかもわからない。

「さっきから一律の距離を保ったまま、詰めてこない……様子を伺っている? それとも……何か別の」

 少女を見失わないであろうギリギリの距離。追手の担いでいる大口径の銃口は下ろしたまま、一向に使うそぶりもない。 

 全速力で何分も走っていたせいか、少女は時々足がもつれそうになる。体のバランスを崩しかけたが、倒れる寸前のところでなんとか態勢を整える。

「このまま逃げ回っていても振りきれないなら」

 彼女の決断は早かった。

 これ以上無駄に体力を消費するのは得策ではない。逃げ続けていては相手の思う壺。思考するよりも直感的に少女は動いた。

「ここで潰しておく――」

 躊躇いは命取り。やるのならば最初から全力。

 少女は腰のポーチに手をかけ、中にある装置を起動させた。

 いつまでも同じ風景が続いていた通路で、少女は急停止。そして、すかさず追跡者の方へ反転。太ももに撒かれているホルスターから、ナイフを引き抜いた。

 少女の突然の反転に、追手は一斉に持っていた銃の引き金を絞った。幾多もの殺意が少女の小さな身体へ向けられている。

 一瞬、挫けそうになるが少女の決意が揺らぐことはない。

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