十二月の肌に刺さる冷たい空気。薄い雲は太陽を遮り、吐く息は薄っすらと白くなる。

 文化祭や体育祭など、目ぼしいイベントが終われば学校内が期末テストへとシフトし始める。もうひと月もしない内に年を越すので世間も年末ムードに入り始めるだろう。

「なんか、優しい顔してるね」

 彼の表情は優しい、とは到底言えない。どう良く見ても無表情だ。しかし、となりを歩く少女にはそれが優しそうに見えたらしい。曇天の凍えるような空の下。彼は少女の突然の言葉に首を傾げる。

「いつもと同じつもりなんだが……むしろ、こちとら期末テストのことを考えてモヤモヤしてるくらいだぞ?」

「え、そうなの? いつもはもっと眉間に皺寄って悪そうな顔してると思うんだけど」

 モコモコの手袋で前髪を退け、眉を中央に押し込みながら少女は精一杯眉間に皺を作ってみせた。だが人畜無害そうな可愛らしい彼女の面では威圧感など皆無である。

「え……俺ってそんなに目つき悪い……?」

「え、悪いよ? だからすぐ街中でも絡まれるんじゃない」

「……自覚ないんだけどな」

「で? で? 何か良いことでもあったの?」

 少女は首に巻いたマフラーを緩めると、白い息を吐きながら子犬のようにたどたどしく詰め寄ってきた。黒くて大きな瞳は興味津々で輝いている。

「いや別に何も。……しいて言うなら、期末テストが終わったら冬休みだなーって思っていたくらいか」

「冬休み! 年末ってワクワクするよね。テレビも特番いっぱいだしイベント事も沢山!」

 やけにテンションが高くてハイになる少女。

「年末が楽しみなんて今まで考えたことなかったんだけどさ……なんでだろうな、今年は少し楽しみだな、って」

 彼は少し小恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「私はこの時期が一年で一番好きなんだー。誕生日があるっていうのもあるけどね」

「そういえば、お前の誕生日って俺知らない」

「ふふふ、なんと、クリスマス・イブなのです」

 少女は胸を張って鼻を高くしてみせた。

「クリスマス・イブか……あれだろ、誕生日プレゼントがクリスマスプレゼントと同じになるやつ」

「って、思うでしょう? でもね、『施設』だとしっかりクリスマスとは別に祝ってくれるの。他の子たちもイベント事が二回あるからラッキーって思ってるんじゃないかな」

 少女は足取り軽く、小さくスキップしながら誇らしげにしてみせた。

「だから年末を最大限に楽しむためにも、期末テストがんばろうね!」

 少女の見せる可愛い笑顔に、彼は思わず目を反らしてしまった。彼の頬は少し赤くなっている。

「なら、数学教えてくれないか? お前、理数系は学年一桁順位だったろ?」

 彼の提案に、少女は一瞬面食らったように固まっていた。

 だがすぐに、

「……えっと、これからウチで……勉強する?」

 今までウキウキ気分でいた少女は顔を赤くしながら地面を見たまま彼の袖を引っ張った。

「……えっと……それは」

「……」

 二人の間に沈黙が流れる。お互いに明後日の方向を向きながら歩き続ける。

「……バイト終わりでも大丈夫か?」

 最初に沈黙を破ったのは、彼の方だった。

 紅くなって下を向いていた少女は顔を勢いよく上げてみせると、綺麗な黒い目が大きく見開かれた。

「だ、大丈夫! 『施設』の人には話しておくから!」

 今まで囁くように話していた少女からは想像できないほどの声量。思わず、そんな少女に見惚れてしまう。

 ギコチナイ二人は、再びお互いそっぽを向いたまま歩き続けた。

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