悪友
ようやく離れた瑩と並んで始業式の会場になっている体育館に入ると、彼女はすぐさま同級生に囲まれてしまった。何か悠に言いたげだった瑩だが、顔見知りと簡単な挨拶を交わしている内にどんどん人が集まり始めてしまう。
悠はそんな人気者の瑩を横目に、自身のクラスである二組の列からそっと離れた所で壁に背中を預けた。
辺りを見回すと、少し離れたところに同級生と談笑している亜紀の姿を見つけた。兄としては、何事もなく周囲に溶け込んでいる妹の姿に安心する。
「おら! 悠! 久しぶりじゃねぇかよ!」
周囲の静寂を切り裂く馬鹿デカい声。同時に一時の安らぎを得ていた悠の首へ真横から衝撃が走った。分厚い腕が彼の肩に回される。
「いてぇな――久しぶりでもないだろ、千鶴。てかお前、キョウ先生の説教を受けたのにまだその痛々しいピアス学校にしてきてるのか?」
同級生には到底見えない、三十代と言われても不思議でない老け顔と堀の深い顔。ブレザーなど着ず、着崩したワイシャツの胸元は大きく開き、分厚い胸板がチラッと露わになっている。頭は金色の坊主で、耳には幾つも凶器のようなピアスがある。
そんな日本人離れしている柄の悪さが極まった男子生徒は、小学校から付き合いのある悠の数少ない悪友だ。
名を、
「オイコラ、名前で呼ぶんじゃねぇって何度言わせやがる。昔馴染みだろうがブッ殺すぞ? てか、てめぇだってピアスしてんじゃねぇかよ」
「別にピアスは校則で禁止されてはねぇから。俺が言ってるのは、その非常識なトゲトゲピアスを言ってんの。春休み気分のままだと、痛い目みるぞ? 始業式にはキョウ先生だって出席するんだからな」
「っう……確かに。またあの回し蹴りは食らいたくはねぇわな」
青い顔をして身震いすると、千鶴は付けていたピアスを外しワイシャツのボタンを止め始めた。
丁度一年前の入学式。
『クソババァが。好きな格好してテメェに何か不都合でもあるのか?』
服装を注意された千鶴が、まだ月村鏡のことを一介の教師としか認知していなかった時に放ったこの言葉。
御もっともなことだが、直後に始業式の華やかな場で舐めた口を利いた千鶴の首に月村女史の回し蹴りがクリティカルヒット。彼の巨体が体育館の宙を舞ったのであった。
去年の始業式は未来永劫、語り継がれる伝説となるだろう。
「不良のポリシーないのな、お前」
「うっせぇ! あの蹴り食らうよりはマシだ。それと、不良不良言うがこれでもお前より年度末の学年成績がいいんだからな? バカにすんなよ」
「四ヶ月もお前らより遅れている俺と学年順位が対して変わらないってのは、どうなんだ?」
「か、勝ちは勝ちだろうが!」
千鶴は悠の背中を大きな手で叩いた。
「痛ぇ、痛ぇからその馬鹿力で何度も叩くな!」
腐れ縁とは言え、千鶴も悠のことを待っていてくれている一人だった。
瑩と千鶴、二人とも以前と変わらず接してきてくれるのが嬉しく、思わず悠の頬が少し緩む。
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