オマケで終わり

 ここは剣山帝国のジョーの城。その執務室の一つである。

 部屋の壁際には本棚がならび、各種書類が項目ごとに詰め込まれている。立派なデスクに座り心地の良さそうな椅子、それにジョーが座り、足をデスクに上げた行儀の良くない格好で、なにやら小さなモノをいじっている。

 その正面ではキジネがファイルから資料を取り出し、読み上げて報告をしていた。部屋にはソファーとテーブルも置いてあるが、それは使わず立って報告を読み上げていた。


「ジョー様不在の間の状況は以上となります」


 キジネがファイルを閉じて言う。

 あの出来事からすでに一週間が経っていた。

 ジョーとクーリスはそれぞれ自分の国に戻り、メキサラは今まで通り趣味の研究に没頭、クォンは相変わらず神出鬼没で、エースとキリはクーリスのいる水晶翅王国で三日休み、その後ジョーの剣山帝国でさらに三日すごした。


「ところで」


 キジネが強めに言う。


「先日のクォンさま来訪時の、『どっちの用意した食べ物を先に選んで食べるかチャレンジ』の結果をまだうかがっておりませんが」


 なんだそれ。ってアレか、ゲート環で《獣魔人》エースと一緒に来たときのお菓子と料理のことか。そんなことやってたのかよ。よゆーだな。


「言っただろ、あんなの引き分けだわ」

「詳しい状況を」

「だから、オレ様のポッキーをお前の小さいのにぶっさして、そのままパクリだよ」


 キジネはうなずいて言う。


「それなら、先にクォン様の口に入ったのは私の料理なので、私の勝ちですね」


 ピクリとジョーのこめかみが震えると、見る間にその表情が怒りに向かって変化する。


「はぁ? じゃあそもそも最初に手に取ったオレ様の勝ちになるだろ」

「手に取っただけでは『食べた』とはいいません」

「なんだとぉ! 『選んだ』のがオレ様のものならオレ様の勝ちだろ!」


 椅子から身を乗り出すジョーと、直立不動のままで圧力を発揮するキジネ。

 一触即発の緊張を解いたのは、ジョーだった。


「……はぁ、だから引き分けでいいだろ。次でケリをつけよーぜ」

「承知しました」


 あっさり引き下がるキジネ。勝負そのものにこだわりがあったわけではないらしい。

 ジョーは椅子に座り直し、背もたれのバネをきしませる。

 ふぅ、と軽く息をつき、キジネに別の話題をふる。


「ところで、結局エースは留められなかったか」

「はい。こちらで紹介、斡旋したお仕事はことごとく断られ、昨日次の国に向けて旅立たれました」


 エースは今回の事件の解決にあたり、被害にあった国を逆に戻りながら報告と謝罪をして回るというのだ。


「状況を引っ掻き回して恩でもうれば、チャンスがあるかと思ったんだけどなー」

「様子を見ますに、エース様はどの国にも手を貸すことはしないでしょう。敵になることを考えなくてもいいだけマシだと思います」

「こっちの戦力になれば、オレ様の世界平和が一気に現実のものになんだよ」


 戦力と世界平和が一つのセリフの中に入るなんて、コイツの方がよほど危ないんではなかろうか。


「ま、無理ならしょーがねー」


 先ほどからいじっていたモノが、やはり完全に壊れていることを確認できたようだ。


「アインヘルのコレを見つけたときは、キッカケにでもなりゃあと期待したんだけどな。まーいーや。もう捨てといて」


 ジョーは手に持っていた、アインヘルの星の形のピアス型『通信機』の片割れをキジネに投げて渡した。


「承知しました」


 キジネは一礼し、執務室から退出した。



 ここは次元の交差点。

 世界と世界の狭間の吹き溜まり。

 様々な異世界と物語が重なり合う場所である。



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勇者が容疑者の事件記録 i-トーマ @i-toma

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