そして解決へ……

人生の転機とは

 ここは次元の交差点。

 世界と世界の狭間の吹き溜まり。様々な異世界が重なり合う場所である。


 そして、人生の交差点であり、運命の吹き溜まりでもある。


 戦略をもってすれば世界地図を書きかえるほどの力と力がぶつかっていた地下空洞は、いまや静寂に身をゆだね、無気力感が空間を満たしていた。

 強烈な破壊力のぶつかり合いは、地下空洞の一部を崩し、床はひび割れ焼け焦げクレーターになっているところもある。空気もいまだ砂塵が舞い、ほこりっぽい。

 そんな空虚な広間に、三人の声が静かに響いている。


 それはなにかを……えー……そう、はげましていた。


「誰にだってこんくらいの転機はあるって。悪いことばっかじゃねーよ。多分」

「そ、そうだぞ。長い人生、これくらい波乱万丈な方が張り合いがあるというものだ。多分」

「いまさら落ち込んだってしょうがねぇじゃん。気分変えていこうぜ」


 ジョー、クーリス、エースが順に声をかける。

 三人の囲む真ん中には、中身が空の銀色の鎧が体育座りで彼方をぼう然と眺めていた。表情はないから雰囲気だけど。

 鎧は話を聞いているのかいないのか、ピクリとも動かない。

 ちなみにその中身の方は、辺りをうろちょろ探索して、崩れた瓦礫を蹴飛ばしてみたり、アインヘルの玉座に座ってみたり。今は、落ちていたアインヘルの剣と盾を影の中へ押し込もうとしているが、うまくいっていない。


「ほら、世界なんか征服しなくても、俺達といっしょに世界を見て回れば、それだけでもけっこう楽しいと思うぜ」

「そうそう、世界はオレ様に任せて、おとなしく子守をしてなよ」

「煽ってどうする、それに世界をお前には任せることはない」


 しばらく鎧に話しかけるが、反応はやはり無い。


「もういい、エース?」


 キリがいつの間にか戻ってきていた。エースの服の裾をつまんで引っ張っている。

 キリは相変わらずマイペースで、先ほどまでの死闘を気にした様子もない。


「そういえばキリちゃんさあ、ここでもそうだけど、メキサラの城でも全然怖がってなかったじゃん? 強くなったよね」


 ジョーがそう言うと、キリはエースの後ろに隠れてしまった。そこから少しだけ顔をのぞかせ、ジョーを軽くにらむ。この姿を見るかぎりでは、他人に慣れてきているようには見えない。


「…………」

「ん? なに?」


 エースが聞き返す。


「だって……ゲーム……仲間はずれ……」

「は? なんでそんな」


 エースが、怪訝な表情で聞き返す。


「…………」

「でも会ったことないだろ?」

「…………」


 キリの声は小さすぎて聞こえないが、エースには意見をはっきりと伝えているようだ。


「ああ……」


 エースが片手で顔をおおい、頭上を仰ぐ。


「その可能性は、考えなかったわ」

「どうした、エース?」


 クーリスがたずねると、失敗に落胆する口調でエースが答える。


「キリは、メキサラの城でのことは、全部ゲームだと思ってたらしい。体験型の推理ゲームみたいな。でも自分にだけはなんの説明もなかったから、ずっと仲間はずれにされてると思ってたんだ」

「なんでまたそんな勘違いを?」


 エースは指の間からクーリスとジョーをのぞき見る。


「メキサラが、偽者だったから」

「は? なんの話だ?」

「俺達とキリがあの城で最初に会ったメキサラは、マッチョの大男でな、本人を知ってれば一瞬で偽者だってわかる」

「ああ、あの消し炭になってた奴か」


 クーリスが頷く。


「でもキリちゃんとメキサラって、会ったことねーだろ?」


 今度はジョーが疑問を出す。


「いや、知ってたんだと」


 エースは、なにか丸いものを抱える仕草で答える。


「水晶玉で見て」


 ああ! とクーリスとジョーの声が重なる。

 思い返せば、確かにキリはワザと事件に関わらないようにしていたふしがある。なんとなく不機嫌で、無関心をよそおった。

 それは、仲間はずれにされて、ふてくされていたのだ。

 当の本人はその誤解に気付いているのかいないのか、話に入れず戸惑っている。


「もういいよ。帰ろ?」


 キリがエースを見上げる。


「そうだな、問題は無くなったし、帰るか」


 クーリスとジョー、そして銀色の鎧を見ながらエースが言う。

 クーリスもジョーも、特に異論は無さそうだ。

 銀の鎧は無反応。


「……行くよ?」


 そこにキリが声をかけると、銀の鎧はその意図を読み取り、立ち上がるとキリに近付く。

 クーリス、ジョー、エース達の間に緊張が高まる。

 銀の鎧は一度バラけ、改めて主となったキリの体をその中に包み込む。

 そして少し振り返るように視線を向けると、そこに落ちていた剣と盾が飛んできてその手に収まり、さらに七つの宝玉がその周囲に浮かぶ。


 いままでにない緊張感。


 黒騎士に姿を変えたそれの行動によっては、一撃必殺の攻撃を叩き込まなければならない。

 エース達のつくる緊迫感の中、黒騎士は、スキップしながら出口の扉へと向かった。

 予想の斜め上の行動に、一瞬あっけにとられたエース達。

 先に行ったキリが、ついて来ない三人を振り返る。


「早く行こ。ここのアトラクションはちょっと面白かった」


 キリは剣で出口を指しながら言う。


 あヤベ、多分、アインヘルが通路に仕掛けたトラップやモンスターのことだが、それ本編ではダイジェストでとばしたところだわ。


 少女の背中を見守る三人は顔を見合わせて苦笑。ゆっくりとその後を追った。


 ゲート環を使えば一瞬で帰れることに気付いたのは、残ったトラップをあらかた潰した後だった。


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