ラスボス

潜入

 ここは次元の交差点。

 世界と世界の狭間の吹き溜まり。様々な異世界が重なり合う場所である。


 さて、第二の刺客を無事やっつけた一行は、全てのエースも交えて今後の方針を話し合った。

 結果、もういっそアインヘルをやっちゃえば早いんじゃね? という結論に落ち着いた。

 幸い、探索班が分析した罠結界の発動状況から、アインヘルの居場所がほぼ特定できていたことも、大きな判断材料となっていた。

 新たに結成したアインヘル討伐班は、エース全員、キリ、クーリス、ジョーだ。

 メキサラは、面倒くさいし研究が忙しいと、同行を断った。見捨てたわけではなく、戦力的にも十分であるとの判断でもある。

 クォンは、時間切れのため同行出来なかった。彼女の変身は有限であり、実はその正体はエースも知らない。ゲート環の受け渡しでメキサラの城のメンバーと探索班のエース達を合流させたあとは、最後の最後までエースを心配していたが、涙を浮かべながらも去っていった。


 エース達一行は、アインヘルの潜む地下迷宮へと足を踏み入れた。

 アインヘルは、様々な魔物を召還し、罠を張り巡らせ、一行を抹殺しようと手を尽くしたが、エース達はなんとかそれらをくぐり抜け、丸一日をかけて遂にアインヘルがいるであろう、大扉の前までたどり着いた。

 その辺りの詳しい内容は、勇者と英雄達がただただ無双するだけのことなので、割愛させていただく。


なんとなく想像していただければ、大体その通りで間違いない。


 大扉の前で、エースが様々な方法で扉の向こう側をスキャンしていた。超科学装置、魔法、超能力のサイコスキャン、獣魔人の超感覚から精霊に覗かせたりと、出来る限りの情報を集める。結果、扉を開けるだけなら問題無いとわかった。


「では、開けるぞ」


 クーリスが告げる。

 ジョーとクーリスが扉の左右に立ち、それぞれ取っ手を握っている。

 扉の正面にはエースが立ち、その背後にキリがいる。盾を持ち、万全の構えだ。

 ジョーとクーリスがお互いに目配せすると、同時に扉を引き開ける。


 大扉の先は、広大な空間であった。

 ドーム球場ほどもある空間に、柱がいくつも立っている。だがそれらは天井までは届いておらず、オブジェのようだ。

 その空間の真ん中よりも少し奥。床より一段高くなった所に、豪華な玉座があった。大きな背もたれは、樹木と炎を融合させたようなデザインで、枝の先端には様々な色のオーブが輝いている。


 そしてそこに、妙齢の女性が座っていた。

 煌めくようなストレートロングの銀髪に、鋭く切れ長の目に赤い瞳。黒いドレスのような服に、大きな緑色の宝石のついたネックレスと、左耳には星形のピアス。腕は魔力の立ちのぼる赤い布がつつみ、手にもほとんどの指に指輪がはまっている。額のサークレットの真ん中には瞳と同じ赤色の宝石があしらわれ、まるで第三の目のようだ。


 アインヘル。


 異世界の魔王。


 彼女は足を組んで座り、片肘をついて、非常に機嫌の悪そうな顔をしている。

 エース達は、真っ直ぐにアインヘルへと歩を進める。あと十メートル程まで近付いたとき、アインヘルが声を上げた。


「ようもここまで来られたもんよな」


 きれいな声なのに口調が汚い。


「しかもほとんど無傷で」


 そこ気にするとこ?


「ムカつく」


 不満のオーラはその全身から出ていた。

 エースが負けず劣らずイラついた顔で睨み返す。


「お前がラスボスか。御託はいらない、さっさとケリをつけようぜ」


 展開早くない?


「俺達が勝てば俺達の勝ち。お前が勝てばお前の勝ちだ。シンプルだろ?」


 なぜ当たり前のことをわざわざ言う? そこは普通、「俺達が勝てば○○は俺達のものだ」的な条件を言うところだろ?


「ごちゃごちゃ考えるのはもう面倒くさいんだよ。さっさとやろうぜ」


 エースのセリフを合図に、クーリスは腰を落とし、拳を構える。

ジョーは斜に構え、右手には剣を、左手は状況の変化に対応出来るようだらりと垂らしている。

エースの右手はマシングラブに剣を握り、獣魔化した左手は丸く結晶となった共振晶を握っていて、周囲の状況を演算するサイバーアイは青く輝いている。

 対するアインヘルは、ふわりと浮かび上がってから床に降りると、数歩前に出る。黒いハイヒールが床石を叩くたびに、魔法円が波紋のように広がる。


「よかろう。世界を支配する我の力、味わうがよい」

「“元”だろ、“元”」


 ジョーが口を挟むと、アインヘルから憤怒のオーラが放たれる。

 背後の玉座から七色のオーブが離れ、アインヘルの周囲に漂う。それらは人の頭程の大きさで、色ごとにそれぞの属性の魔力をまとっている。


「我と汝らの最終決戦だ。悔いの無いよう、存分にチ」エースの背から突き抜けた刃が胸から飛び出した「カラを出し合おうではないか」


 エースは、刃から抜け出すように前に倒れる。


「ま……か、……」


瞳の青が消え、共振晶が割れ、剣が手から離れて床に落ちる。床に血が、広がる。広がる。


エースを貫いた刃は、エースの血を滴らせるそれは、未だそこにあり、その柄を握るのは、鎧の籠手に包まれた、


キリの手だった。

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