予備知識としての

絵本

 ここは次元の交差点……と、始める前に、一つお話を聞いて欲しい。

 それはいずれ童話となって、絵本になるようなお話なんだけど……おや、ちょっと未来のあんなところに、二人の孫にその絵本の読み聞かせをするお婆さんがいるぞ。めんどく……ちょうどいいからちょっとのぞいてみよう。


婆様:さあさあ二人とも、もう寝る時間ですよ。

男児:やった! 電気ネズミゲットだぜ!

女児:にーちゃんいいなぁ。あたしはやっと、はねるやつがみずびーむだせるやつにかわったばっかりなのに。

婆様:ゲームはもう止めて、ねんねの絵本を読みますよ。

男児:はーい。

女児:はーい。

男児:今日はなんの絵本?

婆様:今日は新しい絵本ですよ。

女児:なになに? きょうりゅうのやつ? おばけのやつ?

婆様:今日はね、「怖がり少女」よ。

男児:知らなーい。

女児:おばけでる?

婆様:どうかしらね? じゃあ読むわよ。昔々あるところに、異世界から落ちてきた少女がいました。その少女は近くの集落の人に助けられました。その集落は、召還術師のつどう集落でした。少女はその集落で暮らすことになりました。

女児:しょーかん……?

男児:悪魔とかドラゴンとかを喚び出して戦わせる術だよ。

女児:ぼーるから?

男児:いろいろ。

婆様:そしてしばらくすると、少女には、召還術に対して「真適性」があることがわかったのです。

女児:しんてきせい?

男児:召還の超天才ってこと。

婆様:少女はそのうちに、集落の誰よりも召還術が上手になりました。そんなある日、少女と親友が近くの町へと買い物に出かけた時に、事件は起こったのです。

女児:おばけでた?

男児:おばけは事件のあとにでるんだよ。

婆様:少女達が出かけている間に、集落が山賊に襲われて、全滅していたのです。帰ってきた少女達は異変に気づき、隠れていましたが、山賊に見つかってしまいました。そして、少女の目の前で親友が殺されてしまったのです。

男児:容赦ないね。

女児:おばけになっちゃうね。

婆様:少女も殺されそうになったとき、少女は自分の喚びだせる一番強いモンスターを異世界から探し出し、とっさに喚びました。そのモンスターは、あっという間に山賊を殲滅しました。

男児:強っ!

女児:つよいね!

婆様:その後、そのモンスターは元の世界に戻りたがりました。なぜならそのモンスターは、「世界征服目前の異世界の魔王」だったからです。でも少女は、超強力な召還術で喚びだしてしまった魔王を、送還することができませんでした。召還術が上手いとはいっても、まだまだ経験と技術が足りなかったからです。魔王は怒りました。召還契約に縛られた魔王は、少女を守らなければいけませんから、勝手にどこかへ行くこともできません。そこで魔王は、自分の持つ力の半分以上を少女に与えることで召還契約をごまかし、どこかへ行ってしまいました。その力とは魔具でした。

男児:マグマグ!

女児:まぐかっぷ?

婆様:強い魔法の道具のことよ。そのたくさんの魔具の中に、特に強い魔具が三つありました。それは、剣と盾と水晶玉でした。少女にとって一番相性がよく、そのために不幸の原因となったのは、水晶玉でした。それはこの天地球のどこでも、そして異世界のどこでも見ることができる、とても強力な遠見の水晶玉でした。そして盾は、軽くて硬く、使いやすいことももちろんですが、十ものバリアを張ることができる、とても強力な盾でした。そして、最後の剣は……とりあえず、曲がらず、欠けない、頑丈な剣でした。

男児:剣しょぼ!

女児:しょぼ!

婆様:少女は結局ひとりになってしまいました。そしてこのあと、最大の不運が降りかかります。山賊を追って、近くの国から討伐隊がやってきたのです。しかし、魔具に身を固めた少女を見た討伐隊は、少女を山賊の仲間だと思ってしまったのです。辺りの惨状を見た討伐隊は、すぐに少女を攻撃しました。数々の魔具が守ってくれたので、少女は全くの無傷でした。でも、集落が全滅し、最強の召還モンスターに去られ、その上人間からも拒絶された少女は、この世界に絶望しました。それで、目の前の討伐隊から身を守るために、水晶玉で見つけたモンスターを召還して、返り討ちにしました。

男児:……。

女児:……。

婆様:討伐隊を倒して敵がいなくなったとき、少女が我に返ると、怖くなりました。誰も何も信用できない少女は、自分が喚びだしたモンスターも怖かったのです。怖くて怖くて少女はさらにモンスターを喚びだし、少女を守るために敵を倒せと命令しました。召還されたモンスターは困りました。モンスター同士は、召還契約があってお互いに仲間だとわかっているので、近くに敵を見つけることができなかったからです。それでも命令には逆らえません。モンスター達はしょうがないので、敵を探しに行きました。そして、近くの町を襲い始めたのです。それでも少女は召還を止めませんでした。自分が召還したモンスターを倒すために、もっと強いモンスターを召還するという、悪循環におちいっていたのです。そしてそのうちに、『災厄』級のモンスターをも無尽蔵にあふれ出させる少女は、いつしか『大災厄』と認定されていたのです。

男児:女の子、悪いやつだったの?

女児:わるいことしようとしてないのに。

婆様:それからしばらく、世界中に被害が広がり、その戦力に各国でも具体的な対策がうてないでいると、どこからともなく《勇者》が現れました。《勇者》は、仲間の《英雄》達と一緒にどんどんモンスターをたおして、犠牲を出しながらも、なんとか少女のもとにたどり着きました。《勇者》は少女を見つけると、混乱の源である水晶玉を割りました。そして、少女を旅に誘いました。世界を見て回れば、どこかに安心して暮らせる場所があるかもしれません。こうして少女は『大災厄』ではなくなり、《勇者》と一緒に世界中を旅して回ったのです。少女はもう、世界が怖くはありませんでした。めでたしめでたし。

男児:よかったー!

女児:おばけでなかった。

男児:おばけよりもっとすごいの出たじゃん。

女児:にーちゃんおばけこわいもんね。

男児:怖くないよ! 出てきたらこうやって必殺技で、あーんぱ


 そこまで!

 これが、多少脚色デフォルメされていたりはするが、『第五十三番目の大災厄』ことキリカド・ジョカ、つまりキリと、『世界征服目前の異世界の魔王』こと、アインヘルの物語である。


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