能力

「おー、いるいる」

 エースが手でひさしを作って遠くを眺めている。


 ここは水晶翅王国の東にある紅石東丘陵と呼ばれる場所で、連なる丘のうちの一つの上に立つエースは、さらに東を見ていた。

 そこには、獣のような者、機械の体を持つ者、魔法によって造られた者、空を飛ぶ者など、数々の魔物が群れ、こちらへ向かって進んでいた。

 対する王国軍は、明らかにエースとキリが突出し、その後方に防御と遠距離射撃の得意な第八部隊。更に後方、城壁の辺りに、防衛に特化した第十、第十四部隊が広く展開していた。


 王国軍への指示は、「漏れた魔物を虱潰しにすること」だった。隊員達は、魔物の大群を前にしてのこの指示内容に疑問を抱きながらも、最大限集中して事態に備えていた。


「どうだ、キリ。見覚えあるか?」

 エースが振り返り、鎧姿の少女に訊ねる。

 キリは兜のバイザーを上げて魔物の群れを見た。視界を埋め尽くす程の魔物を端から端まで、下から上まで確認すると、小さく呟いた。

「子か孫かひ孫。多分、群れの親玉が、アインヘルの直接の手下……」

「そっか」


 それだけ言うと、エースは魔物の群れへと、いや、その向こうにあるのであろう何かを見透かすように視線を投げた。そして一度伸びをすると、キリに手を振った。


「一応、流れ弾対策で防御だけはしとけ」


 キリは頷いてバイザーを下げると、周りを確認してからやおらしゃがむ。そしてなにやらブツブツと唱えながら自分の影へと両手を差し出した。影の中で何かが蠢く。それは虫のような細かくうごめく文字のようなもの。それが紋様をかたどると、その回りが一際暗くなった。

 不意に影の表面が水の様に波打つと、そこから何かが浮いてきた。

 ゆっくりと浮かんでくるそれは、剣と盾だった。しかもそれは見るからに禍々しい雰囲気を放ち、キリが着ているシンプルな鎧に対して、不釣り合いに思えた。


 キリ自身も、剣と盾の出現に合わせてゆっくり立ち上がる。

 それらが完全に影から出てくると、まるで磁石に引き寄せられるようにキリの手の中へ収まった。


 途端、剣と盾のまとう負のオーラ的な何かがキリを、いや、キリの装備する鎧を侵食する。


 元々鈍い銀色だった全身鎧が、黒く染まっていく。腕、肩、胸、腰、脚と進み、関節部分などの要所要所が変形し、おもに突起物が出てきて禍々しさをいろどる。侵食がついに兜にまで達すると、ねじれた立派な角が二本、天に向かって突き出てきた。


 変化が全て終わるとそこには、誰もが「こいつ後で中ボスとして出てくるんじゃない?」と予想するであろう、いかにもな暗黒騎士が立っていた。


 ただし、中身のサイズが目測142センチと小柄なため、コスプレ感は否めない。


 そのキリに近づいたエースは、手のひらを向ける。すると、突然キリの姿が変わった。和風の鎧武者がそこに立っていた。


「近づかれたらバレるけど、一応な」

 上から下までチェックすると、エースは親指を立ててみせる。


 キリは、振り返って丘を下った。そして、辺りにあった座るのに手頃な岩を見付けると、そこにちょこんと座って待機した。


 エースはそんなキリを見ることもなく、準備運動をしていた。一通り全身をほぐすと、表情が真剣なものに変わった。

「じゃあ始めますか。行くぞ、おー!」


 一人で気合いを入れると、いきなりエースが二人になった。分離した。


 エースの一人は魔物の群れへと向かって走り出したが、もう一人はその場に残り、声高らかに呪文を唱え始めた。


 彼は《魔法師》エースである。


 呪文の声に周囲の魔力が励起され、発光をともないいながら宙を舞うと、上空に魔法陣を描いていった。


 もう一人の、走っているエースは、何らかの能力強化を使用しているのか、常人にはありえない速度で大地を駆け抜ける。

 しばらくそのスピードを維持したまま走ると、あっという間に魔物の先頭集団と接触した。


 巨大な牛のような魔物に迫った時、エースはまたも二人に分離し、左右に分かれてそれをよけた。よけざまに、右によけたエースはどこからともなく取り出した刀で牛を薙いだ。左によけたエースは右手から鉤爪を伸ばし、強烈な斬撃を叩き込んだ。左右から攻撃を食らった牛は衝撃で吹き飛ぶと、頭から地面に落ちて、光の粒になってはじけるように消えた。


 刀を持った《剣士》エースは、そのまま速度を落とすことなく敵陣の奥へ走り続けた。

 鉤爪のエースは更に三人増え、鉤爪のエースと、見た目普通のエース三人の計四人になっていた。


 鉤爪のエースは肉体の変化が全身におよび、瞬く間に狼男の姿となった。《獣魔人》エースである。その体に闇色のオーラがみなぎると、強烈な遠吠えをあげた。戦場に響くその声は、聞く者に底知れぬ恐怖心を抱かせた。近くの魔物の中にはそれだけで闘争心を失うモノもいたが、一際大きな図体の岩巨人は、それでも三人のエースへと向かって来た。


 岩巨人がその大きな拳を振り上げた時、半身に構えていた《獣魔人》エースの姿がかき消えた。


 次の瞬間、岩巨人の胴体が爆裂した。


 残像も残さぬほどの跳び蹴りが炸裂したのだ。


 その勢いのまま、周囲の魔物へと手当たり次第に攻撃を始めた。その姿はまさに縦横無尽、いや、獣王武人であった。


 他の三人のエースは、お互いに背中合わせで立っていた。

 その内の一人が、自分の身長よりも長い杖をどこからともなく取り出すと、それを地面に突き刺した。

 右手でそれを持って支えたまま、左手で印を切りながらなにやらブツブツと唱えると、杖の先端から光るガラスのような柱が上空へ向けて伸びた。更にそれを支柱として、方々に様々な色の枝が伸びてきた。

 共振晶と呼ばれるその枝は、それぞれの先端に花が咲くように文字や紋様が浮かび、全体がまるで巨木のようにそびえ立つと、そこからオーロラに似た光る波動が放たれた。

 それは戦場を満たすように広がり、点在するエース達や後方の八番隊を包み込むと、筋力増強、防御力上昇、魔力強化、再生力活性、運気向上などの補助効果をもたらした。多分、今、宝くじを買えば、当たる!(希望)

 また魔物達に対しては、痺れによる運動能力低下、集中力妨害による判断能力の低下など、バッドステータスをおこさせた。


 戦場全体におよぶ、《付与魔術師》エースによる広大な援護効果だった。


 それに気付いた魔物のうち、《獣魔人》エースにやられなかった魔物達が三人のエースに向かって来た。


 《付与魔術師》エースの隣のエースが、いつの間にか、握った拳の指に挟むかたちで、試験管のような物を構えていた。


 右手に構えた三本の試験管には、炎が封じ込められている。左手のそれには、一見何も入っていないようであったが、よく見ると細かく振動している様子だった。

 エースが右手の試験管を、かたわらの地面に叩きつけた。

 割れると同時に爆炎が巻き起こり、三本の炎の柱が一つに絡み合うと次第にまとまって、五メートルほどの長い体を持つ龍の姿となった。

 次に左手の試験管も地面叩きつけると、今度は暴風が吹き荒れた。

 風の流れが安定し、宙に浮くつむじ風の形を取ると、その中心に透明な女性のような輪郭が浮かんでいる。

炎の『サラマンダー』に、風の『シルフ』。どちらも精霊である。


 試験管を投げた《精霊使い》エースが特殊な言語で呼びかけると、“炎の龍”と“風纏う乙女”は周囲に群がる魔物へと攻撃を始めた。


 四本の腕を持つ獅子頭の獣人は、飛び回る龍を避けられず炎に包まれた。また、ボロボロの武具を付けた骸骨兵士は、炎の息にあぶられて灰となった。

 蛇の体に鳥の頭と翼を持つ魔物は、風の精霊が放つ突風と衝撃波に全身を強打され、角を持つ巨大兎は竜巻によってまとめて上空高く吹き飛ばされると、落下のダメージで消滅した。


 三人のエースのうち最後の一人は、片手を口元に当てて、気難しい顔で辺りの状況を観察している。急に振り返ってみたり、何かに突然気付いたような仕草で「まさか……」とか言っているが……それだけっぽい。


 その周りでは、ほとんどの魔物は攻撃の態勢に入る前にやられていく。よしんば遠くから攻撃できたとしても、風に吹き散らされたり、炎の体で受け止められたりして、エース達まで届かない。

 今も、両手に杖を構えた魔物の魔術師が火球を放ったが、《獣魔人》エースが魔力のこもった拳でそれを殴ると、目標をそれて大蛙を直撃した。


 さて、一人突出した、《剣士》エースは、手近な魔物を切り払いながらさらに敵陣奥へと進んでいた。その時、魔物の飛行部隊が前進を始めた。様々な空飛ぶ魔物が上空を進んでいく。


 走り続ける《剣士》エースとは別に、またも分離した二人のエースが立ち止まった。


 その内の一人の瞳が青く光ると、超能力によって次の瞬間には上空に瞬間移動していた。


 《超能力者》エースは空中に浮遊したまま、両手の袖から髪の毛よりも細い、透明な糸を無数に放つと、空中に広大な網を張った。それに突っ込んでしまった槍を構えた鳥人は、翼に糸が絡まり、飛べなくなって地面に落ちていった。

 翼ではない飛行能力を持った魔物や、網に気付いて穴を空けて通り抜けた魔物が、空中にいる《超能力者》エースに殺到した。


 彼は瞬間移動で距離をとると、今度は掌の上に作り出した光の玉を放つ。それが、下半身の風の渦によって飛んでいた魔物の顔面に当たると、爆発によって上半身が丸ごと爆散して消えた。


 それにも怯まなかった魔物達が、《超能力者》エースに突撃する。エースも無数の光球を放って応戦するが、いかにも多勢に無勢だった。


 山羊のような角と脚で、皮膜の翼を持った魔物がエースに肉迫した時、魔物を下からの銃撃が襲った。


 地上にいたもう一人のエースの左腕の肘から先が機関銃に変形し、無数の銃弾をばらまいていた。


 彼、《サイボーグ》エースは腰の左右と後ろ、それに足の裏から噴射口出現させると、跳躍と共に空へと飛び上がった。

 更に、今度は右腕を長い刃へと変形させると、器用に空中旋回しながらそれを振り回す。

 剣閃と銃弾が空間に螺旋を描くごとに、魔物達がバラバラと地上に落ちていく。


 後方で呪文を唱える《魔法師》エースがつむぐ、空に広がる魔力の魔法陣を背景に、二人のエースが瞬間移動と高機動を駆使して火力を撒き散らすと、空飛ぶ魔物などまるで相手にならなかった。


 だが、地上と空中、何人ものエースが奮闘するなか、それでも数の差には及ばず、何体もの魔物が後衛の《魔法師》エースまで押し寄せて来た。


 そこには、《魔法師》エースの他にもう二人エースがいて、なにやら様々な装置を周囲に設置していた。


 一人のエースは、アタッシュケース大の箱を、まるで手品の様に空間からいくつも取り出すと、一定の間隔をおいて地面に置いていく。


 もう一人のエースは、こちらも空間から対空砲や多連装ミサイルランチャーなどの設置型重火器を、いくつも配置していく。


 ところで、さっきから『どこからともなく』アイテムを取り出しているが、これはカメラの角度や見た目の都合上のものではない。これは《剣士》エースの出身である情報系世界の、環境による特殊な所有方法とでもいうものだ。


 つまり、『アイテム欄』である。


 《剣士》エースが元々持っていたこの環境を、エース全員が使えるように《次元士》エースが調整したものである。ポーション九十九個だってポケットに入っちゃうぜ。


 さて、一通り設置し終えると、二人のエースはポリバケツの蓋くらいの大きさの円盤をいくつも取り出し、次々と空へと投げ飛ばした。円盤は空中で、機関銃にプロペラが付いたモノに変形し、三十機程が編隊を組んで浮遊した。


 それを終えると、片方のエース、《超科学》エースがゴーグルとごつい手袋を取り出し、装着した。

 ゴーグルの中には、様々な兵器のステータスが立体的に浮かび上がり、まるで指令室にでもいるような風景が見える。それらを、手袋を装着した手で直接操作する事で、設置した兵器に直接指示を出すことが出来る優れものだ。ただ、はたから見ると一人で変な動きをしてるだけなのが玉に傷だが。


 指示を受けた兵器は、魔物を敵と認識して、戦闘態勢に入った。

 アタッシュケースは多脚の小型自走砲へと変形して、魔物の進路を邪魔する位置に陣をしいた。

 空を行く浮遊砲台も、各所へ飛んで射撃を始める。

 そして、空飛ぶ魔物の群れが近付いて来ると、対空砲やミサイルランチャーが反応し、一斉に射撃を開始した。


 空に、爆炎の華が咲き乱れた。


 ほとんどの魔物が空中で消滅していく。まれに生き残っても、飛行能力を失って落下し、墜落のダメージで消えていく。それでも生き残ったモノは、ゴーグルを着けていない方のエースが構えたマシンガンで、虱潰しに倒された。彼は片手に一つずつ、大型のマシンガンを構えていた。個人で携帯するには有り得ない大きさのそれらを、付与魔術の効果もあってか、軽々と振り回しながら魔物を殲滅していく。


 ちなみに彼が《次元士》エースである。


 それでも数が数である。いくらかの魔物が攻撃を逃れ、更に後方へと抜けてしまうことがあった。が、それらは水晶翅王国防衛騎士団第八部隊による、魔法や銃器の超長距離射撃によって狙い撃ちにされた。


 その時、撃ち落とされた魔物が、辺りの派手な戦闘にキョロキョロオロオロするキリの真上へと、たまたま落ちてきた。


 その大型の鳥の魔物はキリに気付くと、せめて一矢報いようと、落下の向きを調整しながらキリに襲いかかった。

 それを見たキリは、へっぴり腰のまま、禍々しい大仰な盾をかかげ上げた。


 そのとき、鳥の魔物は何かに気づいたようだったが、勢いを止めることは出来なかった。

 鳥の魔物は、その鉤爪がキリに届く遥か手前で、魔力によって発生した半球状のバリアにぶつかった。直後に電撃、火炎、衝撃波など、過剰な防御用反応魔法のダメージによって、鳥の魔物は霧散するように消えた。


 それを見届けると、キリはまた辺りを警戒し、キョロキョロしていた。


 その頃、敵陣の中心へと突っ走る《剣士》エースは、とうとう敵の本陣まで到達した。ここまで戦っていた魔物達は、まだまだ先触れ程度。本来の戦闘力は、ここから先に広がる高レベルの魔物の群れがメインである。


 エースが更に速度を上げると、《剣士》エースと、少し遅れた無手のエースに分かれた。


 《剣士》エースは刀を一度鞘に納めると、低空ジャンプで魔物の群れの中を突っ切った。

 その空中で、腰だめに構えた刀を、気合い一閃、振り抜いていた。


「紫電剣閃、至光!」


 台詞と共に再び刀をカチッと鞘におさめると、一拍遅れてまわりの魔物が、明らかに刀の届かないほどの広範囲にわたってぶっとんだ。


「青雲剣衝、次衝!」


 次に抜いた刀を振り回すと、どういった原理かわからないが、振った刀の残像が衝撃波をともないながら直進し、ふれた魔物を弾き飛ばした。魔物の集中する方へ向けて次々に残像を飛ばすと、積み上げた石でできたゴーレムや四本腕の殺人機械、包帯姿のミイラ男などが、面白いように宙を舞った。


 その後方で立ち止まっていた無手のエースは、なにやら拳法の動きで構えを取ると、練氣術によって更に肉体を強化した。筋肉が大きく膨れ上がり、服が内側からの圧力で破れてしまい、上半身裸になってしまった。だが、何故かズボンは破れない。何故か。何故だろう? ストレッチ素材かな?


 彼は近くの強敵を探して歩き出そうとした。が、足が動かない。いつの間にか足元の地面から、土でできた無数の腕が、彼の足を掴んでいた。更にそこへ、一つ目の巨人が巨大な棍棒を振り上げて迫って来た。


 魔物の群れに囲まれ、絶体絶命かと思われたその時、体内で練った氣を全身から放出し、大爆発を起こした。


 足を掴んでいた腕の魔物は粉々に消し飛び、一つ目の巨人やそのほか近くにいた魔物も盛大に吹き飛んでいった。


 軽くクレーターになった爆発の中心地には、氣のオーラをまとった《武闘仙》エースが拳法の構えをとっている。それを見た腕自慢の魔物達が次々と集まって来た。


 《武闘仙》エースは挑んで来た順に、半魚人、亀の化け物、腕が蛇になっている魔人をそれぞれ一撃で倒すと、周りの魔物を見渡した。魔物達も、この人間がただ者ではないことが分かると、警戒して取り囲むだけで近寄って来なくなった。


 《武闘仙》エースはそんな魔物達を見回すと、髪をかきあげつつ、掌を上にした手招きで、かかって来いよと挑発した。


 挑発には、乗る! それが魔物だ! コケにされて黙ってられるか!


 そう思ったのかどうかは分からないが、魔物の群れは一斉に《武闘仙》エースに襲いかかった。エースは不敵に笑うと、ギリギリまで引きつけてから、足下の大地に拳を叩きつけた。その衝撃波で魔物達が一瞬ひるむ。その一瞬の間に、残像を残しつつ敵の隙間をすり抜ける。


 すり抜けざまに一撃を加える。くらった魔物は光となって消える。


 それはあまりに速すぎて、普通の人には《武闘仙》エースと魔物の群れがどちらも一瞬でかき消えたとしか見えなかった。

 だが、周囲の魔物が全ていなくなったとき、いつの間にか元の位置に《武闘仙》エースが立っていた。


 彼は一呼吸、息を整えると、新たな魔物の群れへと向かって走り出した。


 その時、空に異変が起きた。


 宙を舞う魔力元素が、いつの間にか一つの大きな紋様を形作っていた。

 それは、立体的に複雑に交差しながら、戦場の空を見渡す限り全て覆っていた。

 後方、それまでずっと呪文を唱えていた《魔法師》エースが、それを中断する。


 彼はしばし、自分の組み上げた魔法陣を見上げていた。それは、自分の作品に不備が無いかどうか確かめる、クリエイターの眼差しのようでもあった。


 他のエース達や後方の水晶翅王国の兵士達は魔法の完成に気付いていたが、魔物側では一部の指揮官クラスをのぞき、ほとんどの魔物は気付いていなかった。

 《魔法師》エースは、魔法陣のはしからはしまで全てを確認し終わると、一つ小さくうなづいて、魔法を発動させるための最後の一言を唱えた。


「始まりにして終わりの光よ、降れ。『結合崩壊』」


 言葉と同時に、魔法陣の中心を構成する魔力元素そのものが、崩壊した。その崩壊はドミノ倒しのように連鎖的に広がると、あっという間に魔法陣全体が崩れた。


 その一瞬後、崩壊した魔力元素につられるように、空間そのものが崩壊を始めた。


 空一面がひび割れ砕け、あとには輝く隙間がのこった。

 その隙間から、今度は無数の光の粒がもれ出始めた。


 その粒はまず、空を飛ぶ魔物に降りかかると、何の抵抗も無いかのごとく、その体を貫いた。


 その肉体を削り取って。


 そこにさらに雨となった光が降りかかり、光に削られるようにして、魔物は呆気なく消えた。

 空を飛ぶ魔物が次々と光の雨の中に消えると、それに気付いた地上の魔物達が慌てて防御の術や技を使う。しかし、よほど高度なものでない限り、光の雨は防御の術ごと魔物を消し去った。


 離れて見ていれば幻想的なその光景は、第八部隊より前の、魔物の群れの全てを包み込むように降りそそいだ。それはしばらく続いたが、空のひび割れが次第に消えるとともに光の雨もやんだ。


 あとに残ったのは、キリとエース達と、残り二、三百ほどの、特に高レベルの魔物達だけだった。


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