灰出崇文の詩抄少女論 青年──記人
はい、こんにちは。
えー、先日階段から滑り落ちて死という情けない死に方をしてしまいましたが、どうしてかここにおります。しるしびと、というのをやっている……ようです。私にもよくわかっておりません。ある少女をストーキングしております。
ただいま、セクシーな熟女(それも半裸)に「見るな」と言われ、暇を持て余している最中であります。
暇だとついやることを探してしまいますね。社畜の悲しき性であります。ぼんやり思索をしておりました。
そこで私は思うわけです。今書いてるこれ、どこかに発表されるのだろうか、と。
発表されるのであればね、やはりいろんな人にわかってもらえる作品でないといけない。ということで、解説と拙いながら世界の解釈をしていきたいと思います。
青年──記人
……やけに傾斜がついた飴色の古ぼけた机である。机の上には細いペンとインク壷、黒檀に古金の遠眼鏡……
私の記憶が正しければ、これは写本用の机のはずです。細いペンはガラスペンです。生前大変憧れましたので嬉しい。遠眼鏡の色は一人ひとり違いました。漆に金のやつが格好良かった。
……十余人の男が古金の遠眼鏡を覗き込んで……
皆猫背です。私もですが。
……──彼女は思う賣られた母は仕合せだったのだらうかと……
句読点がないですね。読みづらし。ただ、古いのは文体だけで彼の話し言葉は現代人と変わりませんでした。
わかりやすく言うならこうです。
「彼女は、売られた母は幸せだったのかな、と思いました」
まあ何か理由があったのでしょう。
……少女が此方へ来てから、彼方へ行くまで……
これ絶対少女も死んでるやつですよね。(俺も彼方へ行くのかな)(やだな)
……──夜闇破りたる朝影に陰鬱な瞳開けり。……
口語訳するならこうですか?
「夜の闇を破る朝の光が差し込むので、憂鬱そうな瞳を開いた」
普段文語を読まないのであっているかどうか。辞書が欲しい辞書が。
……紙面に引っかかる宝貝の紫。……
これ、別に宝貝みたいな紫色のインクがもったりしてて書きづらそうだな…ってことではないです。彼、ペンを垂直に持って凄い筆圧で書いてるんですよ。ガリ版か何かと勘違いしている様子。ペンが折れないのが不思議。
……──病に怯えたる処女然して其のさ丹頰ふ色。……
処女は「をとめ」なのか「しょじょ」なのか。まあ置いておいて……って、この「さ丹頬ふ色」とはなんじゃらほい。
「処女は病気に怯えているが、その頬はあくまで赤い」
健康そう、ってことですかね。
……──処女臥所より出でて寥々たる御山見き。……
どうでもいい話をします。谷崎潤一郎の小説に、『
「処女は寝台から出て寥々としたお山を見た」
……男は短く息を吐き、薄い唇を舐めた……
この人薄いのは唇だけじゃないです。顔も色素も影も体も、ついでにいうと髪も(ちょっと)薄い。厚いのは顎だけですね。
……ここの果てを見に行くなら……
果てったってすぐそこです。
……──錦の面影はや薄きになれたる。秋來たり。……
面影……擬人法ですかね? うーん。意訳するしかないのかな。
「錦のような紅葉は早くも薄くなってしまっている。秋が来た」
普通、「秋深まり」とかになるんじゃないでしょうかね。紅葉が散りきったらそれもう冬でしょう。まあ感じ方はそれぞれなのでこれ以上何も言いませんが。
……ぼんやり歩いていると、突然地面が消えた。背中の側に白い壁がある。どうやら私は落ちたらしいぞと思っても……
全然びっくりしませんでした。死んでるからかな。
……足が濡れる。体が濡れる。……
今でもほんのり湿気った服が体に張り付いて気持ち悪いです。
……私は白い地面の上にしっかりと立っていた。……
落ちたことよりこっちのほうがびっくりですよ。縦にループでもしているんじゃなかろうか。
……眼下には素晴らしい雲海が広がっている。……
初めて見ました、雲海。死んでみて良かったこともあるものです。
……ずっと遠くの方に、何本も白い棒が見える。あちらの方から見たらこちらもああ見えるのだろう。……
実はこれが気になってるんです。ワインレッドのお兄さんは「少女を記す」と言いましたが、紫のお兄さんは「誰かを記す」と言っていました。言葉のあやかもしれませんが、遠くの白い棒の上にも誰かをストーキングしている人たちがいるのかもしれない、とか思っちゃいますよね。俺たちがストーキングされてる側だったらどうしよう……ゾッとしない。
はい、とりあえず今日はここまで。死んだら地獄へ落ちると思っていましたが、こんなよくわからんとこに来るとは。どうせならダンテの『神曲』みたいに地獄巡りでもさせてくれればよかったのに……ああ、なんで俺死んじゃったんだろう。まだ地獄編の途中までしか読んでないんです。
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