Empty land

wonderland?

穴から底へ、真っ逆さま。長い長い穴の中。落ちているのか、はたまた浮いているのか？ まだまだ続く、暗闇に。

自分がどこにいるのか分からなくなって来た頃、それは唐突に終わりを迎える。

ボスッ！ ゴミ箱にお尻から突っ込んだように、箱の中に体が収まる。ガタガタと運ばれて、やっと辺りが明るくなる。ベルトコンベアに、乗せられているじゃないか。工場で部品を流しているように、自分が運ばれている。

死ぬ覚悟で飛び込んだ者は、頭の中が疑問符でいっぱいだろう。しかし驚くのはまだ早い。これからが始まりなのだ。

イラナイキミでも、素晴らしいものに生まれ変わる。役立たずでも、敗北者でも、脱落者でも。

そんな君たちを、夢のセカイ――ワンダーランドへ招待しよう。

【ジョーカーの決意】

一つ一つ性格が変わるように作られたジョーカーは、どれが本物なのか自分でも混乱した。一見普通に見えても、思ってもいなかったような性格の奴まで出てきた。

ずらりと並べられた自分の体。目に覇気がないその顔は、近くでみると不気味だ。自分もただのガラクタではないだろうかと思ってしまう。

自分は彼にとって、何だったのだろうか。ご主人様に拾われて、自分のモノになれと言われた。その言葉通り、一番近くで彼のモノになった。

「君には名前が無いのかい？」

「名前……そうです。そのようなものはありませんでした」

「じゃあ君に名前をあげよう」

そっと囁かれた名前は、元からそうであったように耳に馴染んだ。

「でも普段はジョーカーと名乗るんだよ。敵になるか味方になるか、或いは高みの見物をしているか……そんな存在に君はなるんだ。しかし私にだけは味方でいてほしい。分かったかい？ ジン」

この時だけ神のように見えていたその人が、人間のカオをした。

「勿論です。ご主人様」

尻尾と耳を揺らしながら、白衣を着た男がバタバタと走り回る。色々な機械を私に取りつけた。これから少し長い眠りにつくんだよ、彼はそう言った。その横でご主人様が僕を撫でている。

「おやすみジン」

どのくらい眠っていたかは分からない。起きると、あの不気味な人形達が完成していた。本物の人間のように振る舞っている。猫の男は、言葉や動き方を教えていた。

よく平気なものだ。あんなに同じ人間ばかりの空間にいたら、頭が痛くなってしまう。もちろん自分だから気味が悪いと思うのかもしれないけど。

私達が計画に支障がないぐらいに完成してから、ご主人様も眠りについた。これからの本番に備えるらしい。その寂しさを紛らわすように、私はジョーカーとしての自分を作り上げていった。

不可思議で、ヘンテコな、不満も快楽もそこら中に落っこちている、そんな世界で実験が始まる。画面は何十個とあるだろうか、それを数十人のジョーカー達が眺めている。誰が少年なのか、誰がご主人様の望みを叶えられるのか。

その中でハクは一人を選んだ。興味深い人間だった。彼を観察しているうちに、不思議な感情が芽生え始めていた。

私はご主人様を溺愛していて、それはほぼ狂信と言ってもいい程だ。あのジョーカー達は、私の性格を強く反映している。話しかけてみると、早くご主人様に会いたいと、それしか言わない。

それを見て、妙な気持ちが生まれていた。ご主人様は好きという言葉では言い表せない。あの場で拾ってもらえたことに感謝している。あのままでは餓死して死んでいた。白い場所で、機械のように死ぬまで研究材料に使われていた僕を、誰かが火事を起こして逃してくれた。でも力のなかった自分ではせっかく生き延びても、無駄にしていただろう。あの時に会えたから、私はここで生きている。

でもご主人様も同じものを求めていたのかもしれない。あの研究所と同じように。私は……私が本当に望むものは……。ジョーカーたちが喚けば喚くほど、冷静になっていった。

「私は彼を、守りたい……」

画面を通してしか見たことがないけれど、君の瞳はここの人達とは違っていた。何故だろう。篠宮ハクに対する君は……友に話しかける君は迷いながらも、ずっと彼のことを想っていた。なぜそんなに……どうして裏切り者にそんな目を向けられるのか。君はきっと、私たちがどんな存在でも……。

私は羨んでいるのか？ 彼の隣で笑っているハクに？ ……私にも、どうやら人間らしさというものが生まれたみたいだ。

私はある賭けをした。私の全てを君に賭ける。君がもし選んだなら、選んでくれたなら……。僅かな確率かもしれないけど、君を信じる。私はジョーカーだから、博打が得意なんだ。どうしようもないもの程、賭けたくなってしまう。

隣で画面を眺めているジョーカーも、壊されたジョーカーも私だ。でも本当のジョーカーは、私だけ！ 私は機械じゃない、材料にされるだけの人間じゃないんだ。だから、私にしかできない！

……私が君を守る。大切な人を裏切ることになったとしても。