(4)

一階は大きく変わったところはない。体育館みたいに、少し廊下や教室が飾りつけられていた。

しかし二階には驚いた。階段を上がってすぐに女、男とよく見るのれんがかかっている。ここフロア全体が風呂場になっているなら、近所の銭湯より大きいかもしれない。

中に入ってみると、まず人数分以上のロッカーが見えた。他にもマッサージチェアーや自動販売機が完備されている。大浴場と個室があり、シャワールームは十個ぐらいあった。これだけあれば混むこともないだろう。

大浴場を開けると、まだ湯は入っていなかった。大きい浴槽に、ヒノキや石などで作られた小さめのもいくつかある。なかなか本格的だ。サウナまであったので、本気でジョーカーが何者なのか考え始める。

お金があるだけではないだろう。何か大きな組織の力が働いてそうで、背筋がひやりとする。でもすげー! すげー! とはしゃいでいる奴らを見ていると、深く考えなくても良い気がしてきた。

「わっ!」

風呂場から出ようと後ろを向くと、すぐそばに黒い物体。

「……っ」

「ああ篠宮か。ごめん、よく見てなかったから……」

「……こっちも、ぼうっとしてたから」

「篠宮はもう見てきたのか? 結構凄いぞ」

「ああ、見た」

「どう思う?」

「……何が?」

「いやーなんかさ、ここまでできるって相当金持ちだよなって。金持ちっていうか、なんかでかい力が働いてそうだ。普通お金があったら、こんなことに使う人なんていないだろ? わざわざ学校を改装するなんて。あ、もしかしてここを学校型銭湯として本格的に始動させるつもりか? 俺たちはそのモニター? だとしても、子供だけを招待してるのは変だな。客なら色んな年代から招待した方が様々な意見が出てくるだろ」

「……その場合なら、確かに商才はなさそうだな。センスがない」

「俺は斬新で良いと思うけどなぁ。まぁ別に学校じゃなくても構わないけど……。需要あるのかな」

「でも、それだったら俺たちに話しても良いんじゃないか? わざわざ閉じ込める必要がない」

「……確かに、シャッターがあっても意味ないもんな。銭湯には。オープンまで秘密にしたいだけだって、やり方が手荒だ。それに、ジョーカーの存在が絶対に銭湯のマスコットキャラクターに相応しくない!」

「はは、そうだな。まぁ一般人とはいえ、一クラス分の人間を拘束している訳だし。普通の奴らが裏にいるとは考えにくい。監禁ともとれるか。そう思ってるのは少ないみたいだけど」

「……そっか、俺たち閉じ込められてるんだもんな」

「不安か?」

「少し不安になってきたかも。相手はこれだけの技術と財がある。全員で束になっても勝てないと思う。ま、それは反抗するときの話だ。大人しく相手の要求に従っているだけなら、大丈夫だと思う」

「……そうか」

「でも相手の意図が見えないのは怖いな。これだけしたんだからその分返せ! とか言われても困るし。何がしたいのか想像つかない」

「うん、まぁ……そうだな」

納得したように頷くと、ゆっくり去っていった。また一人で探索を開始させる。

不安な気持ちがない訳ではない。でも、どうしても気分が上がってしまう。慣れ親しんだ学校がこんなことになったら、誰だって浮かれてしまうんじゃないだろうか。

さっきまで扉が閉じられていたのは、準備をしていたからか。他の階も一通り回ると、どこも綺麗になっていた。寧ろ家よりも心地良さそうだ。

生活必需品は満足に用意され、女子の方にはメイク道具もあったらしく、更にクラスのボルテージは上がっていた。少し工夫すれば、個室のようにもできるらしい。

教室に戻ると、既にパジャマ代わりのジャージに着替えている奴もいて、お泊まり会なんて楽しそうな単語が飛び交っている。

「よし、お前ら! 今から部屋決めしようぜ! なりたいグループの代表でじゃんけんして、勝った奴から決めていくぞ」

わーっと一部は盛り上がったが、もう一部の人種……はっきり言ってしまえば静かな方にいる人達は、あまり関わりたくなさそうだ。女子は大半の女子で作られた大きなグループが一つ、少人数グループが二つ程、後はポツポツと苦い顔をしながら座っているのが一、二人……。

男子も同じようなものだったけど、こっちの方はすっと決まった。普段は個人で過ごしている奴も、グループに入っていた。

大人数は広い部屋を使い、少人数グループは開いてる教室。基本は決められた部屋を使うが、空いてる部屋なら自由に使っていいというルールでまとまった。

部屋決めしたところで、また自由時間になる。後はもう寝る準備ぐらいだ。和やかなムードが漂っている。少し気を緩めてウトウトとしていた。

ヒュンと、どこからか鋭い音がして何かが飛んできた。壁に矢のようなものが刺さっている。それには手紙が括り付けてあって、それはやはりジョーカーからだった。


基本の時間割りをお知らせします。

起床時間は自由で結構ですが、朝食は十時までにとってください。食事は全て体育館に用意します。

それからは基本的に自由時間となります。

お昼は正午から午後二時まで。各自ご自由に(販売機があるので集まって頂かなくても構いません)。

夕食も体育館で、午後六時半から開放。

体育館は午後九時に閉まります。それまでは出入り自由。

深夜零時を過ぎてから大浴場は閉まり、シャワールームのみ使用可能。

宿泊している教室は電気が手動に切り替わります。それ以外の場所では、一定時間後消えますのでご注意を。


【以下注意事項】

学校の備品、壁などを意味もなく破壊するのは禁止。鍵を無理矢理壊すのも禁止。

足りないもの、希望は放送室の前にある、私宛てのボックスに入れてください。その際は名前を書くこと。

その場で解決したい時は、そのまま放送室の扉をノックをしてください。特別ルームに優しく迎えて差し上げますよ! 私がいない時も一言書いておいてくれれば、後から時間を作ります。


それでは長くなりましたが以下の役員を決めてください。

クラス代表2人

食事係2人

保険係2人

私の補佐1〜2人

掃除係2人(この2人だけで掃除する訳じゃないですよ)


その他また増える場合がありますので、積極的に立候補してください。何か追加でご褒美があるかもしれませんからね。

最後に……。

私は皆さんの全てを見ています。私には全て筒抜けなのだと、見られていると意識して、正しき健全な学校生活をお送りください。

from joker



「げぇ、まだ決めることがあんのかよ」

「代表はさ、委員長でよくなぁい?」

「まぁ僕はいいが、もう一人決めなければいけないみたいだな。誰か代表に立候補してくれる人はいるか?」

室内は分かりやすい沈黙に包まれた。

「ま、まぁ代表と言っても僕の補佐的な感じでいいよ。基本的には僕がやるから」

どれだけ時間が経つかと覚悟したところで、ゆらりと前の方から手が上がった。全員の視線がそちらに向く。

「……あたしやろっかなー」

「え、嘘ぉマジ?」

「だって部活なくて暇なんだもん。副部やってるせいで仕切るのとか身についちゃったし、委員長ーあたしやるよ」

「おおっ! それじゃみんな中村君に拍手!」

パチパチと拍手が起こった。

「えっと、次は食事係だな。何をする係かは詳しく書いていないが……恐らく食事を運んだり、ゴミを片付けたりするのだろう。誰かやってくれないか?」

「つーかさぁー、それって絶対決めないといけないの?」

「そういうのはさ、適当に回してけばいいんじゃね? 不公平じゃん」

「あー確かにー」

「ううむ、それも一理あるが……どうなんだ。ジョーカー?」

ジョーカーは本当に見ているのだろうか。気配は感じない。

「うわぁぁっ!」

急に叫び声が上がった方を向くと、ヒラヒラと手を振るジョーカーがいた。その下で、体の小さい工藤が椅子から落ちて震えている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る