prologue

森の中で、一人の少女の荒い息が続いていた。彼女は右に左に何日間も彷徨いながら、出口を探している。何故こんなところにいるのだろうか、もう駄目かもしれないと思いながら。

転んで下に倒れ込んだ。顔を上げると、木の隙間から明るい箇所があるのが見えた。広いところへ出られそうだ。そう分かると一気に体が軽くなる。さっきまではもう一歩も動けないと思っていたのに不思議なものだ。立ち上がり足を動かした。

木々を抜けると、予想していなかった光景が広がっていた。

明らかに普通ではない。普通の廃墟には、馬の頭なんて転がっていない。ピエロの看板なんて落ちてない。

遊園地なのだろうか。不思議な気分で、引き寄せられるように中へ入った。

色々と瓦礫が散らばっているから、気をつけなくてはいけない。建物は一応残っていたけど、半分以上は崩壊し、中身もめちゃくちゃだった。

歩いていると、メリーゴーランドを見つけた。さっきの馬の体部分があるかもしれない。乗れそうなアトラクションを見て、今までの疲れが消えてしまったかのように駆け寄った。動きはしないけど、馬に乗っていると、それだけでお姫様みたいな気分になれる。

しばらく楽しんでいると、前から誰かが歩いてくるのが見えた。その人は帽子を深く被っていて、顔が見えない。こんなところに人が? 廃墟に住んでいるのだろうか。

その人は目の前まで来ると、帽子を取ってお辞儀をした。中身は年老いたおじいさんだった。おじいさんは左手に注目させると、何もないのを確認させてから、手を握った。次に開くと、突然キャンディーが現れた。

凄いと思わず手を叩いて喜んでいると、その人も笑った。馬から降りて、手を繋ぐ。

連れて来られた場所も、ボロボロの建物だった。ここは何の場所だったのだろう。遊園地らしい要素は見つからないけど。

一つの部屋の前で止まると、おじいさんはちゃんと鍵を使って開けた。天井もないのに鍵で開けるなんて、面白い光景だ。

くすくす笑いながら部屋に入ると、手を離した。机の引き出しを順番に開けている。しばらくして、おじいさんがニッコリと笑って手招きした。近づくと、スイッチと書かれた赤いボタンを持っている。

「ずっとこの時を待っていたんだよ……」

そう興奮気味に呟いたその瞳は、少年のようにキラキラとしていた。

「さぁ、これを一緒に押そう」

「これはなんのスイッチなの?」

「押してみたら分かるよ」

そう言って、一緒にスイッチを押した。数秒後に建物がガタガタと揺れだす。地震?

慌てて机を掴んだところで周りを見ると、思わず目を疑った。瓦礫や壊れた壁が浮かんで、元の位置に戻っていく。

「さぁ、物語の始まりだよ」

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