wonderland

気がつくと懐かしい匂い、暖かいものに包まれていた。これは確か……。

「おい、起きたなら離れてくれ」

不機嫌な声がして目を開けると、猫がこちらを見ていた。また目を閉じると、ばんばんと叩かれる。

「起きろって言ってんの! 君が人の尻尾を枕にしてるせいで僕が動けないの!」

「……うーん」

「ああもう! 君ってば状況分かってるの? 本当バカだよ! アホアホ! 僕がいなかったら死んでてもおかしくなかったんだからね!」

ここまで不機嫌なのも珍しい、いや日常茶飯事だっけ。

「戦ったことないくせにカッコつけちゃってさ……もう本当に苦労したよ。君は目を覚まさないし……いっつも勝手に行動して、無茶するんだから」

すんと鼻を揺らした。尻尾もゆらゆら動いている。仕方なく起き上がって、振り向いた。

「ごめん、ありがとな」

「……そのセリフは、尻尾から手を離してから言え!」

ふわふわの尻尾に手を伸ばし、存分にもふもふさせて頂く。

「あーやっぱりこれだよなぁ。いいじゃないか、減るもんじゃないし。お前のこれより気持ち良いものこの世にないぞ。商品化したらどうだ。そういうの得意だろ」

「僕はクッションじゃない! 一生触るな! 離れろ!」

人間サイズの猫なので、あれ人間? 猫人間なので尻尾が大きい。本物の猫では味わえない感触だ。いっそのこと、この毛を使って枕とか作ってみたいが、そういう残酷な趣味は無い……はずだ。

「なぁ、帽子屋……」

「久々にお茶会をしよう。目覚めた記念だ」

「あ、ちょっと……話を聞けって……全く、君って相変わらずだなぁもう……」


おかえり、帽子屋。


テーブルいっぱいに食べきれないほどのカップケーキと、溢れるぐらいの皿とカップを用意する。そうこれだ、これぐらいじゃないと落ち着かない。

「やっぱり俺がブレンドした紅茶が一番だろ? チェシャ」

「……あーはいはい。そうですね」

クッキーをひとかけら紅茶の中に入れたところで、顔を上げる。

「ところで、あっちの世界は?」

「懲りないなぁ君も。ま、言うと思って用意しておいたよ。君の望む、面白い展開になってるんじゃないかな」

猫から受け取った薄い板に映像が流れた。そこには廃墟になった遊園地と、老人と少女が映っている。

「……何だこれ?」

「ふふん、君がいない間に技術が発達したんだよ」

録画までできるようになったんだぞと、小さい板を自慢げに見せた。

「お前はこれが誰だか分かるか」

「ちょっと無視なの? 頑張ったのに! あ、いや僕なら割と簡単に作れちゃったけどさぁ」


……そっか。なら俺もまだ紅茶が飲めるな。ティーパーティーは終わらないみたいだ。新たなお菓子を用意して待っているよ……アリス。

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