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遊園地は着々と準備が進んでいるらしく、オープンは大晦日に決まった。オーナーは日本人ではないだろうという噂だけど、敢えて狙ったのだろうか。お祭り騒ぎは更に盛り上がることになりそうだ。
そして例の招待はその一週間前、クリスマスに行われる。既に当たった人にはチケットが送られたらしい。結局俺の元には来なかったけど、予想通りかなりの応募があったみたいだからしょうがない。招待されたのは当初の予定通り五千人で、オープン時のチケットも発売された。数秒で半年先まで売り切れ状態になったそうで、それ以降の予定は出ていない。改めて世間の流行というものに苦笑しつつ、行けるのは何年後かな、なんて楽観的に考えていた。
街に目を向けてみると、キラキラした飾りや音楽で賑わっている。なんとなく寄ったコンビニで、冬限定の文字に釣られてチョコレートを手に取った。クリスマス仕様に変わったちょっとお高い奴は美味いと味わっていたら、いつのまにか下駄箱まで着いていた。
靴を履き替えていると、後ろからダダダッと駆けてくる音がしたので反射的に身構える。
「よっ!」
そう元気にバシバシ叩いてくる奴は一人しかいない。肩を摩りながら何があったんだと聞いてやると、嬉しそうに口元を押さえた。
「聞いて驚くなよ……いや驚け! 存分に驚きたまえ! フフフ……やべぇーにやけるー……あのな、あのなっ! 例の遊園地のチケットあっただろ? あれさぁ……ははっ! 当たったんだよねぇぇ!」
意味不明の愉快なダンスを披露している姿はとても楽しそうだ。踊り出したそいつを見ていると、後ろから呆れたような声と一緒に佐々木が現れた。
「ちょっとはしゃぎすぎじゃない? 当てたのは僕なのに」
「……え」
随分間抜けな顔をしてしまっただろうか。それを見て笑った後、だってあまりにも頼まれるからさーと答えた。
「佐々木様ぁー! 佐々木様!」
今度は土下座しながら拝み、泣き崇めている和田を見ていると、これだけ喜んでいるなら俺もあげてしまうかもしれないと思った。さぞかしチケットも存分に喜ばれて良い気分なことだろう。
「よぉおし! これでデートだぜぇ、うひょー」
「相手は?」
「ま、まぁ! こんなお宝があったら誰でも余裕だろ? へへへっ」
くるくる踊りながら教室へ向かっていく後ろ姿を見届けて、相変わらず楽しそうな奴だなと呟く。嵐が過ぎると、佐々木は困ったような顔で笑っていた。
「まさか当たるとは思わなかったよ。びっくりした」
「そうだろうな……」
「ここで運使い果たしちゃったかな。でもあげたからセーフだったりしてね。良いこと起きるかな」
「きっと起きるよ」
「……うん」
佐々木はどこか複雑そうな顔で、無理に笑みを浮かべた。
「約束したのに、連れて行ってあげられなくてごめん」
「いや、そんなの全然大丈夫。アイツも喜んでるし、当たるなんて思ってもなかったからさ。別に急いでもないし、もう少し落ち着いた頃行こうぜ」
そう言うとホッとしたように、それもそうだねと歩き出した。本当に連れて行ってくれる気だったのか。
教室に着くと、和田が必死に何かを書いていた。なんだそれと声かけると分かりやすいほど驚き、びくっと椅子から落ちそうになっていた。その勢いで腕を掴まれ、教室の隅まで強制的に追いやられる。
「痛いって……なんだよ」
しーっとオーバーに指を立てると、周りを警戒するようにぐるりと見渡した。
「これから言うことは極秘だからな、絶対誰にも言うなよ……実は俺……小川を誘おうかと思ってる」
「えっ! うわっ」
思わず声に出してしまうと、マフラーで口元を押さえられた。
「静かに!」
コクコクと頷くと解放される。
それにしてもまさか小川だとは……。隣のクラスの小川裕美は、性格はあまり目立つタイプではないが、遠くから見ても分かるぐらい目を引く容姿と、清楚な雰囲気が校内で人気だった。黒髪ロングはまさに男の理想ってやつじゃないだろうか。
「けど小川なら彼氏ぐらいいるだろ?」
「うっ! ……いや、でも一日で良いんだ。友達としてでもいいから、一緒に過ごしたいんだよ……」
思っていたよりも純粋な気持ちで彼女のことが好きだったらしい。そんな相手がいることを少し羨ましく思いながら、応援の気持ちを込めて肩を叩いた。
「頑張れよ、存分にやってこい」
「お、お前やっぱいい奴だなぁ!」
バンバンと叩かれた背中がちょっと鬱陶しいけど、そこには素直に笑ってる自分がいた。
そんな感じで一日中ソワソワしてる和田を観察しつつ、今年のクリスマスはどう過ごそうかと考える。うちは一般的な家庭だと思う。特別なことはしない。デパートとかに行って、いつもは食べないようなチキンとかオードブルなんかを買って、父さんは遅くなるだろうから母さんと二人でバラエティでも見ながら……みたいな感じか。正直全く興味がない訳じゃないけど、自分に恋人ができて二人で過ごすなんてあまり想像つかない。男同士の付き合いの方が気楽っていう奴だ。
でも、これも大人になるということから目を背けているだけなのかもしれない。まだあらゆることに責任を持つことが怖い。それでも、もうすぐ子供ではいられなくなるんだ。大人と子供の狭間、自分自身が決めなくてはいけないことが多くなってきて、それを考えるのは凄く難しいから、つい逃げてしまいたくなる。
みんなも大変なことから少しでも逃れられるように、日々の鬱憤を晴らせる場所を求めているからこそ、あの遊園地に期待をしているのだろう。様々な気持ちを押し込めながら待っているんだ。
いつの間にか休み時間になっていたようで、ボーッとしすぎだって笑われた。全く聞いてなかったことを反省したけど、休み前ということもあり、殆ど先生の雑談だったらしい。
あっという間に放課後になり、和田はド緊張しながらも一人で行く! と言うので、先に佐々木と帰ることにした。
「アイツ大丈夫かなー。でも青春みたいでいいよね。ちょっと羨ましいかも」
どうやらコイツも同じことを考えてたらしい。冬休みどうする? などダラダラ雑談しながらいつもの場所で別れた。
一人になると途端に空気の冷たさを再確認させられる。ポケットに手を入れると忘れていたチョコレートがあって、一粒口に入れた。
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