06

コウ


 ドライヴの翌日。

 学校に行く気がしなくて休んでると、ロクが制服のまま明るい声でやって来た。


「…学校は?」


「早退。仕事の連絡があったから」


「……」


「大きな仕事だ」


「……」



 今までなら『どんな仕事!?』って…飛びついて聞いたかもしれない。

 それほどに…あたしは、誰かの血を流す事に誇りを持ってた。


 …持ってた…はずなんだけど…



『…やっと君に会えた気がする…』


 そう言って、もう一度キスをした高津さんは…あたしをギュッと抱きしめて。

 …ただ、ギュッと抱きしめて…何も言わなくなった。


 今まで色んな男に抱きしめられたし、色んな男と寝た。

 だけど…あんな抱擁は初めてだった。

 男の胸で目を閉じたのも…初めてだった。


 高津さんは、あたしの頭を撫でたり…背中に回した手…指先にまで優しさを感じるような抱きしめ方で…あたしを包んだ。


 …初めて…『愛されたい』と思った。

 そして…『嫌われたくない』…とも。



 そうすると、自然に湧いて来る気持ちがあった。

 …仕事をやめたい。

 本気で、そう思った。


 だけど…引き返せない。

 引き返せるわけがない…。



「…どんな仕事?」


 億劫だけど問いかけると。


「爆薬庫の爆破」


 緑は、図面を開いて。


「爆薬の量が多いから、命がけだ」


 って、ペンを走らせた。


ヘキは?」


「さあ、学校じゃないか?」


「…ふうん…」


 打ち合せに碧がいないのは、初めて。

 でも、それもどうでもいいようにさえ思えてしまう。

 こんなにやる気をなくしてるあたしに。

 この仕事ができるのかな…



コウ


「ん?」


「この仕事終わったらさ…」


「うん」


「どこか、田舎にでも行って静かに暮らそうぜ」


「……」


 ロクの思いがけない言葉に、あたしは呆然としてしまった。


「…どうしたの?急にそんなこと…」


「おまえも、思ってんじゃないのか?そろそろ限界だって」


「……」


「俺もヘキも言ってんだ。もしかしたら、俺たち間違ったことしてるよ なって」


ロク…」


「でも俺たちはいつまでも一緒だぜ。一人が辞めるなら、みんなで辞める。そうだろ?」


「……」


 …驚いた。

 ロクヘキも…あたしと同じ気持ちになってたなんて…



「あたし…」


「大丈夫だよ。これが終わったら、俺達…『普通』になるんだ」


「……」


 普通…

 あたし、普通の…女の子になれる…?



「そのためにも…最後の仕事、しっかりやろうぜ」


 ロクはそう言って、いつもの真剣な目を戻した。


「…うん」


 これで…終わり。

 これが終わったら…

 あたし達は、『普通』になる。


 もう…



『武器』じゃなくなるんだ…。

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