ショタ吸血鬼育成日記
ミハエルやエンディミオンが幼い少年のようにも見えることで、彼らとの関係について嫌悪感を抱く者もいるだろう。けれどそれは、所詮、個人的な感覚でしかない。ミハエルもエンディミオンも、実年齢は、アオやさくらの倍をはるかに上回り、その精神はれっきとした<大人>なのだから。ただ、外見が幼く見えるだけでしかない。
大人として、共に人生を生きるパートナーとして認めるに足る相手だから、その能力があると実感できたから、すべてを委ねることができた。
ただ可愛らしい相手に気持ちが昂ったのではない、大人としての見識に基いた判断だった。
熱情に蕩けた一時が過ぎて、満たされた心持ちでミハエルに抱き締められたアオが言う。
「……私ね、実は『ショタ吸血鬼育成日記』ってタイトルでミハエルとの日常をまとめてたんだ……だけど、実際に<育成>されてたのは完全に私の方だった……なんか、恥ずかしいよ……」
そう打ち明けるアオに、ミハエルは言う。
「ううん…それは違うよ。僕はちゃんとアオに<育成>してもらってた……」
「……え…?」
戸惑うアオに、彼は柔らかく微笑みかける。
「アオと出逢う前と後では、僕は全く違う僕になってたよ。
これまでの僕は、吸血鬼としての能力に頼ってて、どこか人間のことを自分達吸血鬼よりも劣った生き物だって、未熟で粗野で、僕達が歩み寄ってあげなくちゃ共存なんてできない生き物だって心のどこかでは思ってたんだって今なら分かる……思い上がってたんだよ。
だけど、アオは、そんな僕の慢心を打ち砕いてくれた……
アオは、ちゃんと、僕のことを育ててくれてたんだ。育成してくれてたんだよ。
だから何も間違ってない…そのままで大丈夫だよ……」
アオを見詰める深い碧眼そのもののような、豊かな水の流れのごとくゆったりと包み込むような彼の言葉に、アオは自分の奥深いところから熱が込み上げるのを感じた。
「…そんな風に言われたら、余計に恥ずかしいよ……
だけど、私は、ミハエルの<パートナー>だって、胸を張っていいんだね……? 思い上がっていいんだね……?」
顔を真っ赤に染めながら、縋るように言うアオに、ミハエルはますます目を細める。
「もちろんだよ…アオは僕の最高のパートナーだよ……」
こんなに甘い一時を過ごしたのに、残念ながらアオはすぐには妊娠しなかった。
「そりゃ確かに、『二年後くらいに』とは言ったよ? だけど、もしすぐに赤ちゃんが来ても頑張ろうって覚悟は決めてたんだよ。正直、一発で来ると思ってたよ。
ほんと、なんなのこの肩透かし?」
不満げに頬杖をつきながらこぼすアオに、
「人生は思う通りに行かないのが楽しいんですよ。先生」
そんなさくらに、
「いや、確かにそうだけどさあ…」
納得がいかないアオの頭を、
「よしよし♡」
と撫でてくれていたのだった。
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