奇妙な家

さくらの家の近所では、ちょっとした噂になっていた。<奇妙な家>のことが。


玄関前と家の裏が温室になっているという奇抜な造りの建物もそうだが、とにかくその家に出入りしている人間が奇妙だった。


それは当然、さくらの家のことである。


エンディミオンは基本的に普段は気配を消しているので、たまに見かけられるだけだったものの、険しい表情をした白人の美少年がたまに出入りしているというだけでもさすがに耳目を集めるだろう。


しかも、どうやら一緒に暮らしているらしい高校生くらいの少年は、見た目の割に言動がやけに幼く、『可哀想に……』と同情的な目で見られていた。


さらには、夫らしき男性の気配は全くないにもかかわらず子供もできたらしく、それもまた『可哀想に』と同情する者もいると同時に、


『結婚もしないで子供とか、だらしのない女』


などと揶揄する者も中にはいる。


町内会に参加しないのも、その辺りの事情で構われたくないのだろうという空気感があり、遠巻きに眺めて噂話をするだけだった。


気にする人間はそういうのを気にするかもしれないものの、さくらはまったく気にしない。なにしろ途方もなく強い味方がいるのだから、町内会に頼る必要もまるでないのだから。


<町内会>というのは結局は<互助組織>である。


『お互いに助け合う』


ことが目的の任意の組織であって、参加を強制されるいわれはない。


しかしその一方で、参加しなければ子供らのために町内会主導で行われるような行事(近畿地方で言うなら<地蔵盆>など)への参加も憚られるところだろう。建前上は『町内会に参加してしなくても参加してもらっても構わない』と口にするところもあるとはいえ、決していい顔はされないのも現実だと思われる。


が、エンディミオンやアオやミハエルといった<味方>がいるさくらにとってはその程度の不都合は、不都合にも当たらなかった。


町内会に参加しないことで嫌がらせをしてくるような輩がいれば(実際にそういう事例があるという話はさくらも知っていたが)それこそエンディミオンが黙っていないだろう。ひどく傷付けるようなことはしないとしても、<怖い思い>くらいはさせられる可能性はある。とは言え、さくらは彼がそんなことをするのも望んでいない。言いたい人間には言わせておけばいいと思っているだけだ。


もし、自宅前をゴミの集積地にされたりとか、自宅前の街灯がわざと外されたりとかいう種類の陰湿な嫌がらせがあったとしても好きにさせておくつもりだった。


それに今は生まれたばかりの恵莉花えりか秋生あきおの世話でそれどころではなかったのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る