気にするな
アオとさくらがそうやって決意を新たにしている間にも、さくらとエンディミオンは赤ん坊の世話に追われていた。
なにしろ双子なので、授乳にかかる時間は倍以上、手間も倍以上、さくらは身嗜みを整えている暇どころかほとんど寝ることさえできない状態だった。髪はボサボサ、極度の睡眠不足から人相すら変わってしまっていた。普段のさくらとはとても同一人物に見えないほどだ。
それを、エンディミオンが支える。
彼自身はこれまで子育てなどしたこともなかったものの、さすがに長い時間を生きているだけあって聞きかじった知識だけでもそれなりのものだった。
また、見様見真似だけでも人並み以上にはこなせてしまう。しかもダンピールなので体力的にも人間とは比較にならない。仮眠を取るだけでも十分に回復する。
さくらにとってはこれ以上ない<助っ人>だった。
母乳は豊富に出ていたので搾乳して冷凍しておき、さくらがどうしても起きられない時にはエンディミオンにそれを温めてもらって
「…ごめん…ありがとう……」
朦朧とした意識の中でさくらが礼を言うと、
「気にするな。寝てろ……」
素っ気ない言い方ではあったもののエンディミオンはそう彼女を労った。
加えて、赤ん坊達に母親を取られた形になった
いくら外見は高校生くらいでもまだ中身は一歳の赤ん坊同然の洸を一人にはしておけない。身の回りの世話だけでなく、『構ってやる』ことも重要だった。
これをおざなりにすると、自己肯定感の低い、承認欲求を拗らせた子供になってしまう可能性があるからだ。
とは言え、さくら一人でそこまでするのは現実問題として無理がある。実際にやってみれば分かるが、そこまでできる母親はそう多くない。例外的にこなせる者がいたとしても、一般的ではない。ならば、エンディミオンが補うしかない。
ベビーシッターなどを雇うという方法もあるものの、ダンピールとウェアウルフが同居している家庭ではそれもいろいろと難しい。加えてアオやミハエルなら手伝ってもくれるかもしれないが、それはそれでエンディミオンにとっては精神衛生上の問題もある。
だからこうやってエンディミオン自身がやる方がずっと合理的だった。
「さくら、たいへんだもんね」
「ああ、だからそっとしておいてやってくれ……」
エンディミオンに構ってもらえてることで、洸も少し寂しい思いもしているものの聞き分けてくれていた。それに洸の場合は、いっぱい構ってもらいたかったらアオのところに行けばいいというのもある。
「洸」
ほとんど毎日のように、アオがさくらの家を訪ねて洸を迎えに来てくれていた。
エンディミオンに遠慮して中までは入らないものの、玄関先で声を掛ければ、ウェアウルフの洸には十分届く。
「アオ~♡」
家から飛び出してきて甘える洸を、アオは、
「おお、よしよしよしよし♡」
と撫でたのだった。
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